数学教育研究所 公式サイト Mathematics Education Institute Official Web Site
Feb.23
2014
今年の東大入試に期待すること

今年もあと2日で国立大学の2次試験が行われる。今年は、いわゆる「ゆとり世代」の最後の入試である。

実は、東大をはじめとする一部の国立大学の入試はこの20年くらいはそれほど易しくはなっていないで、ある一定の難しさをキープしている。それに対し、早稲田理工、慶応理工・医の問題はかなりやさしくなって、今では、これが私立の雄なのかと疑いたくなるレベルである。もちろん、早慶には「易しくした理由がある」と言うのだろうが、それは私はだいたいわかっている。

私は、今の日本の高校生の学力を牽引しているのは、文科省ではなく東大、京大の入試問題を作っている人達だと考えている。そう考えるには理由はいくつかあるが、その一つとして「数学A問題」があるだろう。
「数学A問題」とは、文科省は新課程の数学Aは
「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」
から2項目を選択し、それに2単位を与えるとしているのに対し、主な大学は
「数学Aの3項目すべてから出題する」
としている。
文科省は2項目でよいと言っているのだから、高等学校では2項目を学習すれば数学Aの単位をもらえる。しかし、大学側が数学Aは3項目必要というから、ほとんどの受験校では3項目を学習せざるを得ない状況である。つまり、
「高校側は、文科省の言うことよりも大学側の言うことをきいている」
という状況なのだ。
これは文科省としてはさぞかし面白くはないだろう。そのせいもあるのか、最近の文科省の「大学入試改革」は、主導権を自分たちの方に持って来ようとしているようにも見えなくもない。

このように、文科省がいくらカリキュラムを変更しようとしても大学側が「○○を出題する」と言えば、受験生は○○を勉強せざるを得ないのだ。かつて京大が微分方程式を出題したように。
このように、今、日本の高校数学のレベルは大学入試レベルによって決定されているようなものであり、影の「支配者」は大学側なのだ。

先ほども述べたように、東大をはじめとする一部の国立大学は「ゆとり世代」に対しても入試問題をやさしくしていない。実はこのことは大学側にとってはリスクのある行動なのだ。それは、問題が難しいと低得点に多く分布し、受験生の学力を振り分けるはずの入学試験が「入学試験」としては機能しなくなるからである。そして、「東大は数学を勉強しなくても合格する」というイメージを受験生に持たれてしまう。実際、東大の理科一類は120点満点中10点程度でも合格する例はある。そのような学生は、大学に入っても授業についていけないのが普通であり、ときには周りの足を引っ張りかねない。
こういう場合、大学によっては、そのような学生のために教育プログラムを組んでフォローしたりするところもある。これは大学にとっての負担である。
しかし、大学入試問題が難しければ、それを目標に勉強するわけで、勉強してきた学生のいくらかはある一定の水準を保った学力を持っている。
「ゆとり世代は本当に、学力が低いのか?」
と言う問いに対して、私は
「必ずしもそうではない。むしろ、変わっていない。」
と答える。これはこれまで東大などの一部の国立大学が入試レベルを下げなかったからである。(ちなみに東大は他教科は以前よりかなり易しくなっている)
こうしてきた東大・京大等の入試が日本における教育に果たした役割は非常に大きい。
文科省がどんなに骨抜きなカリキュラムを作ろうとこれらの国立大学が一定のレベルの問題を出題している限りは日本の学力はある程度維持できるのだ。

最近は、文科省が大学入試についても縛りをかけようとしているが、本当に文科省の思うように制限してしまうと、今度は本当に日本が沈んでしまうだろう。

さて、いよいよ、2日後にせまった国立大学の入試であるが、私個人としては一定水準を保った入試問題を期待してその問題発表を待つこととする。

Feb.22
2014
メールの回復

 一昨日から普通になっておりましたメールは回復しました。現在は送受信可能になっております。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

Feb.21
2014
緊急のお知らせ(メールの不通について)

 ただ今、メールに不都合が生じてメールの送受信ができなくなっています。不便をおかけして申し訳ありません。週明けには回復する計画です。しばらくお待ちください。

Feb.17
2014
「お問い合わせ」 に講演依頼に関する説明を追加しました。">「お問い合わせ」 に講演依頼に関する説明を追加しました。

お陰様で昨年度から私に対する講演依頼が増加しています。「問い合わせ」をしていただいた方々にはお礼を申し上げます。
そのときによくある質問に対する回答をあらかじめ記しておきました。参考にしていただければと思います。

Feb.16
2014
エミール春期講習講座「計算のエチュード」のお知らせ。

 以前から、高校数学における計算の重要性について触れておきましたが、この春、私が講師を務める「東大進学塾エミール」において私のオリジナル講座である計算講座「計算のエチュード」を2日間(6時間)ではありますが、実施することになりました。この講座はエミールに通わない外部の高校生にも一時的に開放してありますので、これから受験勉強を始めようとする新高3生のみなさんの参加を期待します。
日時は、3月21日,22日の 18:00 ~ 21:00 です。このような講座は他を見渡す限りありませんので、他の春期講習とは内容は重複しません。
以下は、エミールのパンフレットに載せた講座案内文を少し修正したものです。

★———————-★
 ほぼすべての大学入試問題に欠かせない力が「計算力」である。しかし, この「計算力」を多くの人が誤解しているために高 3 になってから数学の成績が伸び悩むようになることが少なくない。
 「計算」は「単純な作業」という一面がある一方, 「考える計算」というものがある。それは,
● 式をどのように見て捉えるか
(「多項式の次数は多項式の顔である」「定数と変数の区別」「式の中で重要な部分とそうでない部分の区別」等)

● 計画性に基づく式変形
(「意味のない変形をどれだけ行っても結果は得られない」「数学の苦手な人ほどやたらに数式を展開したがる」「結果からの逆算で方針が見える」「不要な変数の消去」等)

などこれから受験のための数学を学習する人にとっては欠かすことのできない内容である。
ほとんどの人にとって, この機会に学習しないと得ることのできない知識, 考え方なので数学をある程度得意としている高校生にも勧める。なお, 今回は数学 II, B までの範囲に絞って講義する。
(注): エチュード(Etude) は練習曲の意味。特定の技術向上のために作られた曲を意味する。
★———————-★

申込みに関することは、エミールのホームページ
東大進学塾エミール
からご覧ください。
(2月16日現在ではまだ告知されていません。もうしばらくお待ちください。)

Jan.01
2014
新年のご挨拶

 皆様、明けましておめでとうございます。昨年に引き続き本年もよろしくお願いします。
 本年は多くの企画が予定されています。「受験数学の理論」、「数学の計算革命」の新課程版の刊行の他、新書の刊行も予定されております。これらについては、刊行日が近づいたときに詳細をこちらから発表させていただきます。今の段階で言えることは、「受験数学の理論」がこれまでの分野別であるのに対して、改訂版は「数学 IA」「数学 IIB」「数学III」のような分け方になっていることと、検定教科書のように「問い」「章末問題」などをつけて、多少ですが問題集の機能ももたせることです。「受験数学の理論」は高校数学の(文科省のカリキュラムによらない)真の教科書を目指してきました。これまで以上に質をあげてどこよりも受験生に適した「教科書」になるように努力して参ります。
 また、数学教育そのものの改革にも着手する予定です。数学教育に携わる人がきちんとした理解のもとに高校生を教育しなければならないのは言うまでもありません。そのために、お手伝いになるような書籍も予定しております。

 数学・数学教育以外には、自作のピアノ曲のうち独奏曲の楽譜の刊行も予定されております。

 以前のように進捗状況をこちらで詳しく説明する予定です。よろしくお願いいたします。

Dec.20
2013
中学入試の不思議な慣習

 よく, 中学入試において「中学校の知識を使ってはいけない」と言う話を聞く。
中学校の知識が役に立つ部分としては, 例えば, 1 元 1 次方程式, 2 元 1 次連立方程式などがあげられる。もちろん他にもある。この話がどこまで本当かわからないが, 満更でたらめでもないような感触を受ける。

 私としては、そのような制限は一部の優秀な小学生の才能の芽を摘む行為でしかないと思う。高校数学でもそうだが, 日本の数学教育のよくないところは, 学習範囲を制限するところにある。そして, このような制限は, 小学生の数学の力を大人が「教育的な理由」ではなく, 「政治的な理由」で抑え込む悪しき慣例ではないだろうか。
 もちろん, 「中学校の知識を使ってはいけない」という事情に到達するまでは様々な経緯があったことだろう。「小学校の知識だけでどこまで考える力をもっているか量りたい」というのも理解できないわけではない。しかし, これでは, 小学校のときに中学数学を終えている児童, あるいは高校数学を終えている児童は受からないことになる。また, 連立方程式くらいをしっかり学習していれば, それはそれで中学校での手間は省けるのではないか。もしかして, 中学の先生は「小学校の塾で習うような教え方は嫌いだ!」などと考えているのだろうか。
 優秀な小学生は, 中学数学の知識をもっていながら(あるいは理解する力をもっていながら)それを使わずに, 「中学入試のときだけ, 中学入試にあわせた方式で解く」と言った「大人の対応」をとることになる。中学入試の問題には, 人の一生の中で, そのとき(中学入試を勉強するとき)にしか役立たないことを多く含まれる。例をあげればきりがない。この労力は子供たちには実に無駄である。

 本当に、「中学入試では中学校の知識は使えないのか」という問題に対しては, 私はよく, 中学入試を行っている学校の生徒に
「ここの学校の数学の先生は, 大学入試で教科書に載っていないことに対してうるさいか?」
と聞く。例えば, 「合同式」ですら「入試で使うな」と指導していたり, 「白抜きの Z (整数の集合を表す記号) を入試で使うな」などのように表現にすぎないことまでも厳しく指導するような教員がいるようでは, 中学入試もそう判断している可能性が高いからだ。こういう教員が大学入試を指導しているとなれば, 生徒に無駄な労力を強いていることになる。

 次のような中学入試を行う中学校が出てくると画期的なのだが。それは, 中学校の募集要項で,

「中学入試の算数においては, 中学校の知識を正しく使っていれば, 満点を与えます」

と記してある学校だ。
 すでに実際にあるのだろうか? それは私の不勉強で今のところわからない。

Dec.18
2013
新課程数学の基本 (5)

 今回、数学IIIと数学Cが数学IIIに統合された理由の一つとして
「数学Cの教科書を買わされたけど、全然使わなかったじゃないか」
という声があったかららしい。
つまり、数学Cの教科書は買ったのだが、実は授業を行っていない学校が結構あったということだろうか。また、旧課程では、数学Aは教科書の内容をすべて履修するものの数学B, 数学 C では教科書に書かれてある部分の半分しか履修しない。せっかく、買ったのに半分しか学習しないというのは、数学の他にどの教科があるのだろうか。
 新課程でも数学 B の「確率分布と統計的な推測」は履修する学校はほとんどない。もしも、「数列」と「ベクトル」のみを扱った教科書の発行が許されるのであれば、それは飛ぶように売れることだろう。

 さて、その数学 III に取り込まれた「複素数平面」であるが、前回に取り入れられたときは、北大、一橋大、東京医科歯科大が初年度から出題したが、多くの大学は新課程 3 年目からであった。東北大、東工大、慶応(医) のようにほとんど複素数平面に興味をしめさない大学もあった。
 出題の仕方であるが、まず、最初はド・モアブルの定理を使う問題、回転移動した点の座標を求めるために利用する問題が多く、徐々に複素数平面の図形、1 次分数変換など難化していく傾向にあった。約 10 年間複素数平面が出題範囲の中にあったわけだが、最後の 1, 2 年はそれほど手の込んだものは少なくなっていったように感じる。
 |z-a|=r の表す円とか、 w=(z+1)/(2z-1) による変換など教科書では扱わないものもあるので注意を要する。
 ちなみに記号に関して不便なことが 2 つある。一つは、絶対値が r, 偏角がθである複素数を r(cosθ+isinθ) と書くのはちょっと長いということである。一部で適用されているように、 のような記号を普及させてもらいたいものである。
もう一つは「ベクトルABを表す複素数」に記号を用意してもらいたいということである。もちろん、その都度定義して使えばよいのだが、頻繁に使うものであれば共通して使えるように整備すべきと感じる。

Dec.17
2013
新課程数学の基本 (4)

 新課程になって新しく学習することになった分野には
「データの分析」「整数分野」「複素数平面」
がある。これらは、それぞれ次の点で状況が異なる。

・「データの分析」: これまでにはない新しい分野(と言ってよいだろう)。入学試験で出題された実績も(一部の大学とセンター試験を除いて)ほとんどない。

・「整数分野」: 文科省のカリキュラムとしては新しいが、すでに大学入試では出題されてきた。大学入試においてすでに「独自の文化」が形成されてある。

・「複素数平面」: 1994 年からのカリキュラムからは導入されたが、2003 年からのカリキュラムでは消滅した。すなわち「復活した新しい分野」である。

今回は、このうちの「整数分野」について述べる。
 これまでの大学入試おける整数分野は大きく次の 4 つに大別される。

(A) 余りに関する問題 (2^100 を 7 で割った余りは何か?)
(B) 素数と互いに素に関する問題
(C) 整数解を求める問題
(D) 整数の離散性に関する問題

このうち、(C) の問題の
・ 3x+4y=1 を満たす整数 (x,y) の組を求めよ。
・ xy+2x+4y-7=0 を満たす整数 (x,y) の組を求めよ。
程度であれば、パターン暗記でも太刀打ちできるから数学が苦手な生徒でもある程度は何とかなる。新課程では、この(C)に力を入れている。
これまでの大学入試では、「ax+by=c 型」の問題の場合は x,y の係数の小さいものが主であったが、新課程カリキュラムでは、例えば 「71x+39y=1」のように係数が大きい場合も扱うとされている。この場合、最初の 1 個の解を見つけるのが難しく、これはこれまでの課程で高校 3 年生に説明してもなかなか理解してもらえないものである。おそらく、次の改定のときには「大きな係数」の場合は消滅するのだろう。

また、(B) の問題は、カリキュラムの中でははっきりと組み込まれてはいないが、これが出題されたときはつねに論証問題になり難しい。実際、かなり難しい問題を作ることができる。

Dec.16
2013
新課程数学の基本 (3)

 新課程カリキュラムの導入で多くの人に衝撃的だったのは、数学Iという必修科目に「データの分析」という統計関連の分野が入ったことだろう。かなり前に統計分野が必修化されていたときもあったが、大学入試においては試験範囲から「ただし、統計的推測は除く」と書かれていることが「普通」で大学入試範囲からは除外されていた。
 しかしながら今回は数学 I の中にあるからセンター試験でも必ずと言ってよいほど確実に出題されるため、無視することはできない。
 さて、この「データの分析」が、受験生にとってセンター試験だけでよいのか、2 次対策も必要なのかによって対応は異なってくる。

ちなみに、大学入試センターが発表した試作問題はここにある。
http://www.dnc.ac.jp/modules/center_exam/content0594.html
この問題についてコメントを少し加えると、この問題は「慌てて作成した」か「問題作りに慣れていない人の作品」である。それは、教科書ではあまり扱わない内容を取り上げていたり、問題文に対する慎重さが多少欠落しているところから読み取れる。

センター試験だけのことを考えれば、対策は難しくはない。また、数学 B でいわゆる「確率分布」の項目を選択する学校は皆無に近いことを考えると、「データの分析」を高 3 まで学習しなくてもとりあえずは困ることはない。
 ところが、2 次試験の出題範囲となるといろいろな状況が考えられる。センター試験は原則として他分野との融合問題はない。例えば、「確率」と「漸化式」の両方の知識が必要な問題は出題できない。しかし、2 次試験の場合はそれができる。その場合、「顔はデーターの分析、中味は論証問題」ということも可能である。
簡単な例を簡単に表現すると
「全員が偏差値が 40 より大きく 60 より小さくなるような試験は存在しないことを示せ。」
(ただし, 人数は 2 以上で、全員が同じ点数である場合を除く)
のようなものもできる。

 数学の教員の中には、「本当にデータの分析から出題されるの? 」とか「でないよね」と言っている人も少なくないので心配になるが、ここで記したようにデータの分析の顔をした問題は出題の可能性がある。