数学教育研究所 公式サイト Mathematics Education Institute Official Web Site
May.16
2011
「微積分学の基本定理」は「定理」ではない!

 高校数学の積分の導入部分において, 積分は「微分の逆」として定義される。つまり, f(x) の積分とは微分して f(x) になる関数の一般形である。

 数学に限らないことと思うが, 一般に, 最初から厳格さにこだわって説明をすると初学者が破綻することは多い。例えば, 「x が a に限りなく近づくとき f(x) が αの限りなく近づくこと」を ε-δ論法を使って高校生に定義しても, 理解できる高校生は数パーセントであろう。それよりも, 収束については「とりあえず」は曖昧な説明をしておき, そこから先の世界をある程度見てもらい, しばらくたって再度「収束することの定義」を考えてもらう方がよい。

 さて, もう一度, 積分の定義に話を戻そう。積分の定義も高校生に最初から厳格に定義をしてもおそらくほとんどの高校生は理解できないとの考えから「積分は微分の逆」で定義しているのだと思う。これについては, 教え方の工夫の一つではあることは認めつつも, 個人的にはあまり好きにはなれない。
 まず第一に, この定義の場合, 高校数学の積分は「リーマン積分」なのだろうか, それとも「ルベーグ積分」なのだろうかはわからない。リーマン積分の場合は, いわゆるディリクレの関数, すなわち, x が有理数のとき 1, 無理数のとき 0 をとる関数 を 0 から 1 まで積分することはできないが, ルベーグ積分の場合はこの定積分の値は 0 である。はたして高校数学の場合は定績分の値はどちらになるのだろうか。
 そして, 現行課程における教科書の最大の矛盾は, 微積分学の基本定理である。これは, a を定数として 「x の関数 ∫_(a)^(x) f(t) dt は x の関数であり, これを x で微分すると f(x) になる」というもの, つまり,
  d/dx ∫_(a)^(x) f(t) dt=f(x)
である。これは「積分した関数を微分すると元の関数になる」, つまり「積分は微分の逆である」ことを言ったものであるが, このことは高校数学の中では定義であったはずである。これを知らないうちに定理に摩り替えてしまうと, 高校生の目の前で「大人」が定義と定理を混乱して使っている「手本」を見せているようなものである。高校数学の中では, 微積分学の基本定理は「定理」ではないのだ。これが定理でないことも私のとっては(もちろん多くの数学者にとっても)気持ち悪いことではあるが, このまま「定理」と呼び続けてよいものなのかということをよく悩んでいる。

May.04
2011
2 つの行動力

 以前, 幸せ物語の中で書いたことで, 最近特に感じたことを再度取り上げてみたいと思う。

 私は, 受験に限らず何か目標を達成するためには, そのどこかで「行動力」の強さを必要とする場面が幾度となく存在すると思う。私自身はものごとを「精神論」のようなもので解決するのは好むところではないが, 今はこの「行動力」について触れてみたい。

 この「行動力」は大きく 2 つの力に分類できる。それは, 次の 2 つである。

A. やらなければならないことをやり遂げる力
B. やってはならないことをやらないで自制する力

A については, 例えば
(A1) 毎日, 朝ジョギングをすると決めた。しかし, 面倒になってきた。でも, 一度決めたことはきちんとやりとげよう。このような場面の意志の強さでやりとげる力。
(A2) 受験勉強で, どんなに疲れていても毎日英単語を 10 個ずつ覚えると決めた。それをやり遂げるのに必要な力。

などである。一方で B については,

(B1) タバコを路上に捨ててはいけないことはわかっている。でもやってしまうのはこの力のない人である。
(B2) 薬物に手を出してはいけないことは知っている。しかし, 興味本位で手を出してしまうのはこの力がない人である。
(B3) 今, このタイミングでゲームで遊べば, 明日の試験はボロボロになってしまう。そこで, ゲームを自制できる人はこの力がある人である。

ちなみに, 私自身は未だタバコを触ったことすらない。薬物についてはいうまでもない。

この 2 つの力に関して「面白い」というと不謹慎かもしれないが, あえて「興味深い」ものはというとそれは, 「人はそれぞれ A, B の両方に均等に強いというわけではない」ことだ。
つまり, A は強い力をもっているのだが, B は全く駄目, あるいはその逆の人もよくいて, 必ずしも A が強いからといって, B も強いとは限らない。
A の方は達成できたときは, 目立つことが多いから, 有名な人が A を達成した場合は人々の注目を集めたり, また子供の場合は誉められることは多い。しかし, B の方は「そんなことをしないのが当たり前」なので, B の力が強くても誉められるわけではない。しかし, B の力は大変重要である。これがない人が大小の差はあっても, 「裏切り行為」や「犯罪」をおかしてしまうことになるのだと思う。

 必ずしも「何かの目標の達成」のためだけではなく, 普段の生活の中でもこの A, B の力をバランスよく持つことは重要なことである。
最近, 私のまわりには B の力がない人が多いので, この話を取り上げてみた。

Apr.28
2011
ピアノ演奏 (メドレー)

以前、収録したピアノの演奏です。Mathmusic の収録のときについでに収録したものですので、どの曲も曲の一部しか入っていません。
ミスをしているところもありますが、多めに見てください。
励ましていただければ調子に乗って、またいろいろとのせようと思っています(笑)。

Apr.17
2011
「幸せ物語2011」スタート

無知であることは, しばしば人を「幸せ」な状態にします。できたと思っても実
は全くできていない, でも本人はそれを全く知らない, あるいは勉強が捗ってい
ると思っているが実はぜんぜん進んでいない, そんな状態の人を「幸せな人」と
定義しましょう。これから, そんな幸せな人の物語が始まります。

2011年の「幸せ物語」がスタートしました。pdfデータをダウンロードの上、お楽しみください。

  •  幸せ物語2011 イントロ.pdf(2011.04.17 up)
  • ***

    「幸せ物語」の様々な展開についてはこちらのリンクをご覧ください。

    Apr.09
    2011
    Mathmusic “e”

    こちらも以前にもお伝えした Mathmusic 「e (自然対数の底)」の演奏風景版です。どうぞご覧ください。

    Apr.09
    2011
    Mathmusic “trigonometric function”

    以前にも書きました Mathmusic 「三角関数」の演奏風景版です。よろしければご覧ください。

    Mar.07
    2011
    Mathmusic “e”

    Mathmusic 2 e (自然対数の底)
     これは, 自然対数の底 e=2.7182818… に現れる数字を音に対応させて曲にしました。
    楽譜とともにご覧ください。

    Mar.07
    2011
    Mathmusic “trigonometric function”

    Mathmusic とは, 様々な値を音に対応させ曲に仕上げたものです。
    ピアノの入門時の指使いでは
    ド, レ, ミ, ファ, ソが順に 1,2,3,4,5
    になっていますが, それを拡張して,
    0…シ, 1…ド, 2…レ, 3…ミ, 4…ファ, 5…ソ, 6…ラ, 7…シ, 8…ド, 9…レ
    のように数字を音に対応させてあります。

    Mathmusic 1 三角関数
     これは, sin 0゜,sin 10゜, sin 20゜, ・・・, sin 90゜の小数点以下 (sin 90゜は整数部分) を音に当てはめ曲にしたものです。
     楽譜と共に楽しんでください。

    Mar.07
    2011
    東工大の入試に関して – 父兄との話から –

     最近は進学校の父兄と話をすることも多くなり, つい先日もある進学校の「お母様」方の集まりにも「招待」された。その場では学習法や大学進学情報などの話をするわけだが, こちらが「常識」と思われることでも意外と知られていないと感じることも多々あるので, それを少しずつ記していこうと思う。おそらく, 受験生を子にもつ方々にも役立つことと思う。

     今回は、東工大入試について。

     東工大は, 東大レベルにまで学力が到達しなかった高校生が受ける大学と思われていることが多いようである。例えば「お母様」達の中には
     「うちの子は東大は無理だから東工大にするわ」
    のような発言があり, その真意は「東大に合格する学力はないので, それよりも少し試験の点数が低くても入れる東工大なら大丈夫かもしれない」であろう。
     ところが, これは大きな誤解である。なぜなら, 東工大が入試で選ぼうとしている人は東大のそれとは異なっているからである。
     それは両大学の入試おける科目の設定とその配点からもわかる。

     まず, 東大理系 の 2 次試験とその配点は
      外国語 (120), 数学 (120), 国語 (80), 理科 (120)

    これに対して東工大は, まず現行が,
      外国語 (150), 数学 (250), 理科 (150+150)
    であり, 平成 24 年度からはこれが
      外国語(英語) (150), 数学 (300), 理科 (150+150)
    に変更され, より数学が重視される。
     
     なお, 詳しい情報だけならここを見ればわかる。
    http://www.gakumu.titech.ac.jp/nyusi/g_h24/img/2012AdmissionsGuide-1.pdf
     これらを比較してわかることは, 東工大の入試は数学と理科の比重が非常に高いということである。しかも東工大は, 理科を物理と化学に指定しており, その物理と化学を別々に 120 分ずつ試験をしており, このような大学はかなり珍しい。
     したがって, 東大が模試の判定で A 判定であっても得点源が英語・国語の場合は, 東工大には受からない可能性もあり, 逆に東大の判定が D であってもそれが英語・国語がまったくとれていないことが原因であれば, 東工大の判定は A になることもある。つまり, 東大合格者と東工大合格者は「相似形ではない」のである。ここが, 誤解が多い部分である。
     このような事情であるから, 東大の判定が D である理由が
    ・数学, 理科の点が取れないから
    である場合は東工大を受けても受かる可能性はかなり低いであろう。
    逆に, 東大の判定が D である理由が
    ・英語, 国語の点が取れないから
    の場合は, 東工大では望みがある。

     近年, 東工大自身が「東工大らしい入試」をすると言っており, 特別入学資格試験 (平成 24 年度から廃止) を試みるなど斬新な入試改革に取り組んでいる様子は外部からも伺われる。ここから
      総合学力のある学生をとりたい東大
    に対し
      理系学力を特化した学生をとりたい東工大
    のように, 東大と東工大の「住み分け」を進めているとも見ることができる。
     「理系の学力に突出しているものさえあれば東工大に入れる」
    ということになるが, このような方向性の一つとして来年度からのセンター試験がある。 東工大の場合, 平成24年度からは大学入試センター試験は, 950 点満点のうち 600 点さえ取れれば 2 次試験に進め, さらにセンター試験の結果はそれ以降用いないことになっている。
    (注: 一部の受験生は 900 点満点のうち 570 点が基準点である。)
     したがって, 地歴・公民を全く勉強しないでもかまわないということにもなる。これまでは, センター試験の結果が最終合否に関係するから, 少しでも点をとるために, 地歴・公民が苦手であっても学習する意味はあったが, 600 点以上はいくら点をとっても同じなので今後は地歴・公民をまったく学習しない受験生も現れるだろう。例えばセンター試験で
      英語 140, 数学 180, 理科 180, 国語 100, 地歴 0
    で 600 点になる。

     以上のようなことから, 東工大は決して東大を諦めた人が行く大学ではない。
    誤解が多いことなので改めて記しておいた。

    Mar.04
    2011
    報道の質

     最近は報道の質の低さに残念に思うことが多い。

     2月26日午前に北方領土に関する番組があった。もちろん、北方領土を話題に取り上げること自体は結構であるが、そこにいるコメンテータ達が不勉強であったのが残念でならない。
    もちろん、全員が不勉強というわけではないが、中には元プロ野球選手のご婦人という方がいて、「昨日調べて来ましたが・・・・」と言われたときは愕然と来た。
    その程度でコメンテータが務まるのかと思った。また、出演させてよいのかとも思った。
     しかし、一体、あの中の何人が、北方領土を実際に見たことがあるのだろうか。
    北方領土は北海道の根室支庁にある野付岬に立つと国後島が目の前に見える。
    知床半島からは国後島の山々が長く連なっているのがよく見える。
    あれを見て歴史を勉強すればまた発言が変わるであろう。
     僕は北方領土には、普通の人よりはかなり詳しいと思っている。(何度も近くまで行き、元島民の人の話も聞いた。樺太の話もあるが、それは別の機会に。)
    ただ、北方領土については今これ以上ここで語るのは控えようと思っている。
    しかし、番組についてであるが、誰にでも言えるようなコメントしか残せないのであれば、もっと他の人を探した方がよいと感じた。
     

     次に、その日の夜に日本中を騒がした京都大学文系学部入試漏洩について
     テレビの中では、興味の対象は「誰がやったか」であり、平成の「2・26事件」としてにわかに注目を浴びた。まあ、誰がやったかが気になるのはわからなくもない。
     その後で協力者の存在も触れる場面があった。
    例えば、yahoo の知恵袋にのせてあるものの中には 3 分後に解答を得ているような表現もあった。

    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110228-00000073-san-soci.view-000

    このことについては単なる反応の早さだけから、「専門的な判断」をせずに「素人判断」をして協力者の存在を記事にしたり、テレビ番組を作ったりしているものもあった。
    そこで話をしている人、コメンテータと呼ばれている人は「素人」である。
    よく調べてみると実は最初の解答は役に立たないものが少なくない。このことはあまり報道されていない。
    次のようにまとめてみた。

    ************************************
    ( ) 内の数字は質問されてから答えるまでの時間 (単位は分)
    ◎・・・・親切な正しい解答
    ○・・・・正しい解答
    △・・・・方針を述べただけ (役立っていない)
    ×・・・・誤っているもの

    「最初の回答」がなく「ベストアンサー」があるものは、「ベストアンサー」が「最初の回答」である。

           最初の回答    ベストアンサー
    第 1 問(1)              ○ (32)
    第 1 問(2)   △ (3)      × (156)
    第 2 問               ◎ (65)
    第 3 問    △ (27)      ○ (39)
    第 4 問    △ (26)      ○ (78)
    第 5 問               ◎ (107)    
    ************************************

    これらの解答の出来具合の差を考えれば、「協力者」ではないのは明らかであると思う。
    ※例えば第1問の(2)の最初の回答は冷たく突き放すものである。
    http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1256265272

    これを確かめずに、意見を言っている人達もいた。

    今回は、偶然自分にとって詳しいものが続いたが、日本の報道のレベル、番組制作のレベルの低さに驚くとともに残念な気分になった。