- May.30
2013 - リストの「超絶技巧練習曲」のように
19世紀のピアニスト・作曲家のリストの作品に「超絶技巧練習曲」というものがある。これは、当時演奏家として最先端をゆくリストが自分技量を披露するのに十分な内容の曲である。現在は、何人もの方が録音されウェブ上でも無料で聴くことができるので、ぜひ一度聴いてみることを勧めたい。
さて、この超絶技巧練習曲であるが、現在の方になるまでに2回ほど改訂をしている。
・1826年(リスト15歳) に第1稿である「すべての長短調のための48の練習曲 」Op.1 (実際は12曲)としてまず最初に世に出た。この作品の演奏はそれほど難しくはない。少年リスト(とは言ってもベートーベンを驚かした技量はもっていた)の作品であるから、後々のことを考えるとまだまだ成長段階にある作曲家の作品である。
・1837年(リスト26歳) 第2稿「24の大練習曲」(実際は12曲) が完成された。これは、現在最終形として残っているものよりもかなり難しく、リスト以外は演奏不可能とさえも言われていた。
・1852年(リスト41歳) 現在、最終形とされる第3稿が出版された。この版は第2版ほど難しくないものの、演奏効果は高いとされ、しかも芸術的にも洗練された作品と言われる。現在、演奏されるのはこの第3稿がほとんどである。
第2稿は難しく, 当時の若いリストが技巧に走りすぎていささか無駄な音や動きが多いようにも思える。例えば、第8番の「狩」の最初などがそうである。それに比べ, 第3稿は無駄な動きを削除し、必要な旋律を効果的に浮き出すように円熟期をむかえた「芸術家」リストの工夫がみられる。
さて、話は変わり、「受験数学の理論」についてであるが、これは
・1993年「受験生のための教科書」(自費出版)
・1999年「受験教科書」(SEG出版)
・2003年「受験数学の理論」(駿台文庫)
と改訂を続けてきた。
最初の「受験生のための教科書」は、今思うと素人の作る本であった。生徒に本物の数学を伝えたいという気持ちは十分にあったが、「上の図のように」など書いてあっても、ページをまたいでしまったために「上」には図がなく、前のページに図があったりして恥ずかしい部分もあった。これは、リストの超絶技巧練習曲で言えば、第1稿に相当する。
次に, 「受験教科書」「受験数学の理論」は、かなり進歩した。そして、どの本よりも深く、日本で10番目くらいに数学ができる高校生が読んでも十分楽しめるように作成された。ある意味、高校生の理解できる内容に挑戦したものかもしれない。そのため、「普通の高校生」には、余分なページもあったであろう。しかし、教科書では省略されている部分などにも細かく解説しつくした。これは、リストの超絶技巧練習曲の第2稿に相当する。
今、新課程用として「受験数学の理論」を改訂しているが, これは書名も変更し新しいものとして世に出る。もちろん、これまでの原稿を一部使い、方針も踏襲しているものが多いが、あまり必要とされない深すぎる内容は、ものによっては取り除く予定である。リストの超絶技巧練習曲のように無駄な動き、効果のうすい難しさは削除し、より洗練された「芸術的な」内容にすることを考えている。もしかすると、高校数学を超えた深い内容を好む人には、現行版の「受験数学の理論」の方が向いているかもしれない。そのような人は、近いうちに(新版が出れば)絶版になるだろうから今のうちに手に入れておくことを勧める。私の年齢からして、もしかして改訂は今回が最後になるかもしれない、つまり、今回がこのシリーズの「最終形」になるのではないかと思い、後々の人にも使ってもらえるように「洗練された」世界に誇れる内容にしたいと考えている。
新しい版については、この場で細かく報告するので期待してもらいたい。