数学教育研究所 公式サイト Mathematics Education Institute Official Web Site
Dec.09
2015
数学教育の基本 (その 1)

高校数学を考える上で前提となる基本知識をここで確認します。
私の個人的な意見も多少含まれます。

【1】科目の構成の基本
文科省の指導要領上の現行カリキュラムでは, 高校数学の科目設定は次のようになっています。( ) 内は単位数です。
「数学 I (3)」, 「数学 II (4)」, 「数学 III (5)」, 「数学 A (2)」, 「数学 B (2)」
これ以外に「数学活用 (2)」という科目があります。
この中で, 数学 I と数学 A および数学活用は中学数学を理解していれば学習可能となっていて, それ以外は,
「数学 II」および「数学 B」は「数学 I」の履修が条件
「数学 III」は「数学 II」の履修が条件
となっています。
ここまでは学習指導要領上の説明ですが, 実際はそうなっていないところもあるので注意が必要です。
例えば, 「数学III」で数列の極限を扱いますが, これを理解するには「数学B」の数列の知識が必要になります。そのようなところはまだいくつもあります。
建て前上は, 「数学 A」と「数学 B」はその中の 3 項目から 2 項目を選択すればよいということになっているので, 例えば「数学 A」であれば, 場合の数と確率, 整数の性質, 図形の性質から 2 項目を選択すればよいということになっていますが, どの 2 つを履修してもよいので, 数学 A の試験を入試で課す場合はあらかじめどれを履修しておくかを指定するか, どの 2 つを履修してきても対応できるような選択問題を含む問題を作成しなければなりません。ただし, 現状は多くの大学は, 数学 A に関しては, 文科省が 2 項目でよいと言っているのに反し, すべてを履修することとしています。ですので, 数学 A は実質 3 単位の教科になっています。数学 B に関しては, 確率分布と統計的な推測, 数列, ベクトルから 2 項目選択することとなっていますが, ほとんどの高校では数学 B を扱うときは, 数列とベクトルを選択し, 確率分布と統計的な推測は扱いません。これはいろいろな原因がありますが,

・大学入試に出題されないこと
・数学 B であるのに, 一部数学 III を必要とする部分がある
・数学 B の他の 2 つの項目(数列・ベクトル)が数学 III の学習の上でも重要である

が主な理由とされています。この項目を数学 III に入れて必修化すればよいという考えもありますが, 当初は文系の高校生にも学習させたいという意向もあり, 数学 B になりました。事実, 統計分野は一部の文系の人たちにも必要な分野です。

【2】 必修科目は数学Iだけ
さて複雑な選択科目ですが, 「だったらすべてを必修にすればよいのでは?」と考える人もいるかもしれませんが, そうはいきません。
一言で「高校」と言っても普通科から農業, 工業, 商業科などさらには音楽高校など高校は多種多様です。例えば, 音楽学校に進み, 将来演奏家を目指す人には「数学II」は必要がないともいえます。もしかすると「数学I」すら不要と考える人もいることでしょう。そこで, 「すべての高校生」に対する「高校」としてのノルマは最小限しておきたいということで, 「高校」での最低限の数学として「数学I」だけが必修となりました。したがって, 平成 31 年から実施予定の「高等学校基礎学力テスト(仮)」の試験範囲は「数学I」のみということになっています。

【3】1 単位
高校の 1 単位の分量とはおおよそ週に 1 時間の授業を行ない, それを年間 35 週授業が行なうことで終える量というのが基本です。
ところが, 実際は年間 35 週授業時間を確保するのは難しく, 特に月曜日は 27 週以下になる学校も少なくありません。そのため, 高等学校の時間割の組み方として, 週に 1 回だけの授業は極力月曜日に入れないとか, 非常勤の講師の授業は月曜はなるべく避けるなどの手法をとるのが基本です。また, 数学 I は本来 3 単位ですが, これを 4 単位にして授業時間数を確保するなどの対策もとられています。

【4】選択科目(「数学 A」「数学 B」) の分量について
すでに説明した通り, 高校での 1 単位の内容量はおよそ 35 時間分です。数学 I, II, III のようにその科目の中の項目をすべて学習するという場合は, その科目の内容量に差があってもかまいません。例えば, ほとんどの教科書は数学 I の「2 次関数」と「データの分析」に使われているページ数は異なります。もちろん, 高校現場でのその項目にかける授業時間数はかなり異なっているようです。
しかし, 「数学 A」「数学 B」のような選択科目ではそのようにはいきません。「数学 A」を例にとってみましょう。「数学 A」は「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」で構成されていますが, どの 2 つを選択しても 35 時間で終わるように文科省側は設計しなければなりません。その結果, この 3 項目はすべて同じ分量である必要があります。したがって, 高校数学としてもう少し詳しく学習すべき項目があったとしてもそこは減らし, また, あまり時間のかからない項目があった場合は, そこにあまり重要ではないことを追加し無理に時間の均等化をはかります。こうしてできたのが現在の数学 A です。ある意味, 苦労した結果できた科目ではあります。

 

(数学教育の基本 (その2) に続く)

Dec.09
2015
似て非なる計算「極限編」

 説明をしながら解いていくことにします。

(1) \(x\to\infty\) のとき \(\sqrt{x^{2}+4x+2}\to\infty\), \(\sqrt{x^{2}-2x+5}\to \infty\) であるので, 問題文の極限は「\(\infty -\infty\) 型の不定形」です。したがって, 適切な変形をして不定形ではない形に変形しなければなりません。それは, この場合は「分子の有理化」という操作を行ないます。
 次のように得られます。

  \(\begin{align}
\displaystyle\lim_{x\to\infty}(\sqrt{x^{2}+4x+2}-\sqrt{x^{2}-2x+5})&=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{(x^{2}+4x+2)-(x^{2}-2x+5)}{\sqrt{x^{2}+4x+2}+\sqrt{x^{2}-2x+5}}\\
    &=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{6x-3}{\sqrt{x^{2}+4x+2}+\sqrt{x^{2}-2x+5}}\\
    &=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\frac{6-\displaystyle\frac{3}{\,x\,}}{\sqrt{1+\displaystyle\frac{4}{\,x\,}+\frac{2}{\,x^{2}\,}} +\sqrt{1-\displaystyle\frac{2}{\,x\,}+\frac{5}{\,x^{2}}\,}}\\
    &=\displaystyle\frac{6}{1+1}\\
    &=3  (答)\\
\end{align}\)
 
(2) (1) では「分子の有理化」を行ないましたが, この問題の場合はそれを行なう必要はありません。次のように解けばよいのです。

  \(\begin{align}
\displaystyle\lim_{x\to\infty}(\sqrt{2x^{2}+4x+3}-\sqrt{x^{2}+2x+9})&=\displaystyle\lim_{x\to\infty}x\left( \sqrt{2+\displaystyle\frac{4}{\,x\,}+\frac{3}{\,x^{2}\,}}-\sqrt{1+\displaystyle\frac{2}{x}+\frac{9}{x^{2}}}\right)\\
    &=\infty   (答)\\
\end{align}\)
 
 答の一つ前の式では, ( ) 内は \(\sqrt{2}-1\) に近づきます。したがって, この極限は, 「\(\infty\times (\sqrt{2}-1)\)」型の極限ですので, 結果は \(\infty\) になります。
 (2) は (1) のように「有理化」を行なっても極限を求めることはできるのですが, 「わざわざ」それを行なわなかったのは, 根号内の最高次の係数が異なっているからというのが理由です。もう少し詳しく説明すると, \(\sqrt{2x^{2}+4x+3}\) はおよそ \(\sqrt{2}x\) 程度の速さで大きくなるのに対し, \(\sqrt{x^{2}+2x+9}\) は \(x\) 程度の速さで大きくなるので, \(x\) が大きくなると差が広がっていくというわけです。つまり, (2) は見た目でも極限はある程度予想できるようなもので, 「わざわざ」有理化までしなくてもわかるということです。
 ここまでをもう一度振り返ると,
 
 (1) では, \(\sqrt{x^{2}+4x+2}\) と \(\sqrt{x^{2}-2x+5}\) の \(x^{2}\) の係数は一致しています。そのようなときに有理化を行ないます。
 (2) では \(\sqrt{2x^{2}+4x+3}\) と \(\sqrt{x^{2}+4x+9}\) の \(x^{2}\) の係数が異なるので, このような場合は有理化をしなくても答はすぐにわかります。
 
 このようになります。
 
(3) (2) での説明をふまえると, 極限を構成している 2 つの差のうち,

  • \((\sqrt{3x+1}-\sqrt{x+2})\) は有理化しない部分
  • \((\sqrt{2x+5}-\sqrt{2x-1})\) は有理化をする部分

と考えます。次のようになります。

 \(\displaystyle\lim_{x\to\infty}(\sqrt{3x+1}-\sqrt{x+2})(\sqrt{2x+5}-\sqrt{2x-1})\)
 \(\begin{align}
  &=\displaystyle\lim_{x\to\infty}(\sqrt{3x+1}-\sqrt{x+2})\cdot \displaystyle\frac{(2x+5)-(2x-1)}{\sqrt{2x+5}+\sqrt{2x-1}}\\
  &=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\displaystyle\frac{6(\sqrt{3x+1}-\sqrt{x+2})}{\sqrt{2x+5}+\sqrt{2x-1}}\\
  &=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\displaystyle\frac{6\left( \sqrt{3+\displaystyle\frac{1}{\,3\,}}-\sqrt{1+\displaystyle\frac{2}{\,x\,}}\right)}{\sqrt{2+\displaystyle\frac{5}{\,x\,}}+\sqrt{2-\displaystyle\frac{1}{\,x\,}}}\\
  &=\displaystyle\frac{6(\sqrt{3}-1)}{2\sqrt{2}}\\
  &=\displaystyle\frac{3(\sqrt{3}-1)}{\sqrt{2}}\\
  &=\displaystyle\frac{3}{\,2\,}(\sqrt{6}-\sqrt{2})   (答)\\
\end{align}\)

Dec.08
2015
似て非なる計算「極限編」 (問題編)

極限に関する次の問題に取り組んでみてください。解くこと自体は難しくはありません。

【問題 B — 1】

 次の極限を求めよ。

(1) \(\displaystyle\lim_{x\to \infty}(\sqrt{x^{2}+4x+2}-\sqrt{x^{2}-2x+5})\)
(2) \(\displaystyle\lim_{x\to\infty}(\sqrt{2x^{2}+4x+3}-\sqrt{x^{2}+2x+9})\)
(3) \(\displaystyle\lim_{x\to\infty}(\sqrt{3x+1}-\sqrt{x+2})(\sqrt{2x+5}-\sqrt{2x-1})\)

Dec.07
2015
「示せ」と「求めよ」は異なる問題

 今回は, 式変形の手法について扱います。まずは, 次の問題に取り組んでみてください。

【問題 C – 1 】

 \(e\) を自然対数の底とし, 数列 \(\{a_{n}\}\) を次式で定義する.

$$a_{n}=\displaystyle\int_{1}^{e}(\log x)^{n}\,dx (n=1,2,\cdots)$$ 
(1) \(n\geqq 3\) のとき, 次の漸化式を示せ.
$$a_{n}=(n-1)(a_{n-2}-a_{n-1})$$

これは, 2005 年の東工大の問題です。実際は, (2), (3) があってそれは次のような問題でした。
 
(2) \(n\geqq 1\) に対し \(a_{n}\gt a_{n+1}\gt 0\) なることを示せ.
(3) \(n\geqq 2\) のとき, 以下の不等式が成立することを示せ.
$$a_{2n}\lt\displaystyle\frac{3\cdot 5\cdots (2n-1)}{4\cdot 6\cdots (2n)}(e-2)$$
今回は, (2), (3) に触れず (1) の変形について解説することとします。
 
 さて, 「示せ」と言っている式は, \(a_{n}\) を \(a_{n-1}\), \(a_{n-2}\) を用いて表す式です。そこで, \(a_{n}\) と \(a_{n-1}\) の関係が必要になることから, \(a_{n}\) および \(a_{n-1}\) を具体的に書いてみると次のようになります。
 
  \(a_{n}=\displaystyle\int_{1}^{e}(\log x)^{n}\,dx\)
  \(a_{n-1}=\displaystyle\int_{1}^{e}(\log x)^{n-1}\,dx\)
 
積分記号内の \((\log x)^{n}\) を \((\log x)^{n-1}\) に変えるには「微分すればよい」と考えて次のように部分積分を行ないます。

\(\begin{align}
  a_{n}&=\displaystyle\int_{1}^{e}1\cdot (\log x)^{n}\,dx\\
   &=\Bigl[\,x(\log x)^{n}\Bigr]_{1}^{e}-\displaystyle\int_{1}^{e}x\cdot n(\log x)^{n-1}\cdot \displaystyle\frac{1}{x}\,dx\\
   &=e-n\displaystyle\int_{1}^{e}(\log x)^{n-1}\,dx\\
   &=e-na_{n-1}\\
\end{align}\)

すなわち,

   \(a_{n}=e-na_{n-1}\) \(\cdots\cdots\,\)①

が成り立ちます。同様に番号を 1 つ下げることで,

   \(a_{n-1}=e-(n-1)a_{n-2}\) \(\cdots\cdots\,\)②

が得られます。
 さて, ここからが今回のテーマです。これまで得られている①と②からどのようにして, \(a_{n}=(n-1)(a_{n-2}-a_{n-1})\) を得ることができるでしょうか?
 一般に, 「求めよ」というタイプの問題は結果の数値がわかっていません。これに対し, 「示せ」というタイプの問題は結果が与えられているので, 結果の形を観察することで現状から何をしなければならないかがわかる場合があります。式変形においては, 「示せとされる式に含まれる文字」に着目する方法があります。
 まず, ①および②に含まれている文字を見ます。それは,
  \(a_{n}\), \(a_{n-1}\), \(a_{n-2}\), \(n\), \(e\)
です。これに対し「示せ」とされる式に含まれる文字は,
  \(a_{n}\), \(a_{n-1}\), \(a_{n-2}\), \(n\)
です。それでは前者にあって後者にない文字はどれかというと \(e\) です。したがって, ① と ② から式変形のどこかで \(e\) を消去しなければ示したい式には絶対に到達しません。そこで, 求めたい式を得るために「\(e\) の消去」を考えることになります。\(e\) を消去するために今回は ① から ② を引いて
   \(a_{n}-a_{n-1}=-na_{n-1}+(n-1)a_{n-2}\)
とし, これを変形して
   \(a_{n}=(n-1)(a_{n-2}-a_{n-1})\)
を得ることができます。
 
 以上のように「示せ」という問題に対する方針として, 次のようなものが有効な場合もあるということがわかります。

 「示せ」という問題で結論の式が与えられている場合は, 結論の式に含まれている文字に注目し, 残っていてはいけない文字を見つけよ。その文字を消去する方針で計算処理を行なうとうまくいくことがある。

Dec.07
2015
計算のエチュード 基礎編 1 (解答編)


まず, 解答を記します。その後でこの問題の出題意図と人によっては反省材料をお知らせします。
 
【問題 A – 1 】の解答です。
 
(1) \( (x^{2}+3x)^{2}+5x^{2}+15x-14=(x^{2}+3x)^{2}+5(x^{2}+3x)-14\)
        \( =\{(x^{2}+3x)+7\}\{(x^{2}+3x)-2\} \)
        \(=(x^{2}+3x+7)(x^{2}+3x-2)\)
 
(2) \(f(x)=-\left(\displaystyle\frac{1}{\,x\,}-\frac{1}{\,2\,}\right)^{2}+\displaystyle\frac{1}{\,4\,}\)
 
となるから, \(f(x)\) は \( x=2\) のとき最大値
    \( \displaystyle\frac{1}{\,4\,}\)
をとる。
 
(3) 与えられた方程式は,
 
     \( (x+2)+3\sqrt[3]{x+2}-4=0 \)
 
となる。\( \sqrt[3]{x+2}=X\) とおくとこれは,
 
     \( X^{3}+3X-4=0\)

となるから, これを実数の範囲で解くと,
 
     \( (X-1)(X^{2}+X+4)=0 \)
 
ここで, 2 次方程式 \( X^{2}+X+4=0\) は \( (判別式)=1^{2}-4\cdot 4=-15\lt 0\) より実数解をもたない。よって, \( X=1\) のときの
 
     \(\sqrt[3]{x+2}=1\)
     ∴ \( x=-1\)
 
が与えられた方程式の実数解である。

【解説】
 今回は, 「数式を塊で見ることができるか」あるいは「数式の構造をとらえられることができるか」というのがテーマです。数式を最初に見たときにどのような構造をしているかを早い段階で把握できるかどうかが問われています。
 計算力が弱い人には,
 
       展開癖

が多いという特徴があります。これは, 数式を見るととりあえず展開してしまう悪い癖です。数式は展開することで特徴が見えにくくなり, またその後の収拾がつかなくなることもよくあります。もちろん展開しなければ先に進まないことも多くありますが, むやみに展開すればよいというわけではありません。数式を展開する前にすることがあるということです。

(1) では、\( (x^{2}+3x)^{2}\) を展開してしまった人は要注意です。その後に続く \(+5x^{2}+15x\) を見て, この部分を \(+5(x^{2}+3x)\) とすることが気がつくべきでしょう。
 
(2) では, \(f(x)\) が \(□-□^{2}\) の形をしていることに気がついてもらいたいと思います。その後の作業は平方完成です。
 
(3) は \( \sqrt[3]{x+2}\) があることによって, \(x=(x+2)-2\) と見て, \( x+2=(\sqrt[3]{x+2})^{3}\) ととらえたい問題です。もちろん \(\sqrt[3]{x+2}=-x+2\) と変形して両辺を 3 乗する方法もあります。

Dec.06
2015
計算のエチュード 基礎編 1 (問題編)


計算のエチュードの基礎編では, 数式を扱う根本の練習を行ないます。
問題編ではあるテーマに基づいて問題を出しますので、まず各自問題を解いてみてください。解答は原則として翌日に掲載します。

また, 書籍「計算のエチュード」が販売されています。ここに書いてある内容がすべて盛り込まれています。ご一読ください。

【問題 A – 1】
(1) 次の多項式を係数が有理数の範囲で因数分解せよ。

\( (x^{2}+3x)^{2}+5x^{2}+15x-14\)

(2) 次の関数の最大値を求めよ。

\( f(x)=\displaystyle\frac{1}{\,x\,}-\displaystyle\frac{1}{\,x^{2}\,}\)

(3) 次の方程式の実数解を求めよ。

\( x+3\sqrt[3]{x+2}-2=0 \)

Dec.02
2015
第8回高大接続システム改革会議に関して

2015年11月30日に高大接続システム改革会議いわゆる有識者会議が開かれた。
これについてはすでに NHK などのメディアでの報告があるものの、個人的にはこの報告ではやや弱い感じがするので、私個人の感じた部分 (★印のある部分をつけた) も含めて解説する。
なお、文章の中で書かれている内容が不適当(例えば非公開にすべきもの)などがあれば、連絡を頂ければ速やかに削除する。また、★印部分は私の個人的な感想なので発言者からすれば「そうではない」と言いたくなる部分もあるかもしれない。それを踏まえた上でよんでいただきたい。★部分以外で事実と異なる部分があるのであれば速やかに修正をする。

14:00 から文科省の3階1特別会議室で 16:00 までの予定で行われた。この手の会議は、時間厳守のようで、延長は決していないようだ。そのため、以下の2つの議題のうち 1 に時間がかかり 2 の方は 20 分程度しか話されなかった。
今回の議題は次の 2 つである。
1. 多面的な評価検討ワーキンググループにおける審議の進捗状況
2. 「大学入学希望者学力テスト (仮称)」について

★ 傍聴者の大半の期待は 2 の方だったと思う。1 の話のときは私のまわりには大きくいびきをかいて寝ている人たちもいた。

14:00 に開始された会議であるが、しばらく文科省側から配布物の説明が続く。実は、傍聴者への配布資料(資料2-1)が一つ足りなくて、傍聴席がざわつくが、文科省側の説明進められた。文科省からの説明は指導要録の変更点などが主だった。

★ したがって、資料2-1に関する話は傍聴者にはよく理解されなかったと思う。そういうこともあって、NHK の記事にも資料2-1の部分は触れられていない。

14:40 から議題 1 についての議論が開始された。
前半は、高校生の学力をどのように評価するかに時間が使われた。例えば、指導要録の項目についても、小学校の場合は具体的であるのに対し、高校は具体的項目が少なく、自由欄が多い。これに対し、これでは高校が違えば平等な評価ができないのではという意見もあったが、それに対しては、高校は小学校と異なり学習の幅が広い。つまり、普通科もあれば音楽学校のようなものもある。これらを同じくくりで評価するのは困難であるという回答であった。また、調査書については、高校は多様である。むしろ、これまでは多様化を目指してきたという側面がある。したがって、高校生を一種類の評価基準の枠に入れるのは問題があるとの考えも出た。ただ、これでは大学側に信頼される調査書にならない。大学側もこの調査書を使いたいと思わなくなるとのこと。
また評定についてはも高校によっては、5段階の 5 または 4 の評定がほぼすべてのようなところもあり、これでは高校生の能力の差別化になっていないので、これが高校の評定が信頼されない原因でもあるという意見も出た。
中には、企業の採用面接で行われる「エントリーシート」(自己 PR シートのようなもの)を高校生に書かせるとどうかという意見もあった。これは、受ける大学の志望理由や将来の夢、目標を書かせるというものでこれが大学側の判断に効果があるのではないかというものである。

★ 最後の意見は某企業の方と某公立高校の校長の発言である。これに関しては私は的外れだと感じた。
・企業の入社面接であれば、その企業を受ける理由がはっきりしている。しかし、大学の場合はまだ定まらない人も結構多い。まして、大学の志望理由として、「東大に入れないからこちらの大学にした」のようなものもあるだろう。そういう人もそこの大学で夢をかなえれば問題がないと思うが、志望理由としては書くのは難しいだろう。そういう大学のエントリーシートには、受験生の多くは「嘘」を書くことになる。
・理数系の優れた研究者になる人には、大学入学時では自己アピールが下手な人も少なくない。教室では目立たなく控えめな人でも、優れた才能を持っている人は多い。口先だけの雄弁さだけが取り柄の人が有利になるかもしれない制度はいかがなものかと思う。

「エントリーシート」については、おそらくこれを指導する人たちが出てくるだろう。そうなっても意味のあるものを作っていきたいとのこと。
また、高校生の評価について、「こういうことを評価する」と言えば、それが高校生を型にはめることになるのではという意見があった。

★ 例えば、数学オリンピックで入賞するというのであれば、なかなかできないことであるが、何かのボランティア活動をしたら評価するというのであれば、高校生をそちらに誘導することになってしまう。結果、型にはめてしまうという考え方。
この「エントリーシート」に対し、「エントリーカード」というものを提案する人もいた。これは教員が書き込むもので、これを作ってはどうかという意見も出た。そこに生徒の日常的な評価を普段から書き込んでいくとよいとのこと。日常的にコツコツためこんでいくのは手間ではないという。
また、電子化してそれを中学から高校、大学につないで行けばどうかという話もでた。

★ 「手間ではない」というが、私は大変な手間だと思う。その感覚が私にはわからない。ちなみにこれの発言者は都内の小学校の校長。

これ以外にも細かなものはあった。例えば、マイナスの評価も書くべきなど。
15:40 になり、議題2の大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の話題になる

★ ちなみに前々回のときに、「そろそろこのテストの名称の (仮称) を取りましょう」という発言もあったが、この日もついたままだった。
多くの傍聴者はこの部分の話を聞きたかったのだろうが、残り時間20分では、あまり深くは話せない。すぐに、具体的なことは次回という話がでた。次回のときに具体的なものを用意するとのこと。この発言から現在の進捗状況が読めるが、今はあまり触れないことにする。

この議論が始まるとすぐに、これまで発言のなかった東大の五神総長から実質的な発言があった。それは次のようなもの。
(a) 50万人の試験にどのくらいの自由度をもたせた試験が許されるのだろうか。
(b) センター試験の中にも思考力を測るのに適した問題があったはずだ。それをまず検証することが大切だ。過去の良問をもう一度検討すべきだ。
(c) センター試験は思考力を見る方法も蓄積されているのでは?
(d) 記述式になるとマークシートと違い多様な解答があるので、「まちがっている」「あっている」の二者択一ではなく、その中間も存在する。それを評価しないようではまずい。

★ 本日の発言の中で最も的を得て、しかも合理的、建設的な意見であると感じた。
(a) については、50万人の試験を記述で行うのは大変だ。記述試験の中には狭い範囲のぶれで済むものもあれば、まったく自由な解答があるものもある。例えば、「あなたの一番の思い出と理由を書きなさい」のような問題があったとすれば、多種多様でどう評価すればよいのかは難しい。それに対し、ある程度答が予想されるような記述もある。どのくらいのものをどのくらいの覚悟で行うのかを問う質問であると感じた。
(b),(c) これまで、「センター試験は廃止!」ということをスローガンとして大きく上げてきた経緯がある。そんなにすぐに「廃止」と言ってもいいの? ということかもしれない。センター試験にもよい問題はあり、これまでのノウハウの蓄積は貴重である。それをセンター試験はマークシートだからとか、マークシートでは学力は測れないと決めつけて、センター試験を「悪者」にした感じであるが、まず、たとえセンター試験が悪かったとしてもセンター試験の反省がきっちりなされないといけないのではという意見である。
(d) 記述形式の試験という一つの「夢」を追っているが、記述試験にはできたかできないかではなく、「中間点」という評価が必要になる。その評価を懸念している発言であろう。
この後、安西座長から、「思考力」には「演繹的思考力」と「帰納的思考力」があり、今はどちらを見ているのかがわからない状態にある。
また、今のセンター試験では、「この中に必ず正解がある」という仮説のもとに成り立っているが、それがあるかないかでは問題は大きく違うという発言があった。

★ これは、現在のマークシート式のセンター試験の足りない点を述べたのだと思う。だから改革が必要なのだと。

この後、ある委員から、「1 回の試験による選抜だと試験対策ができてしまう。」
という発言もあった。

★ 話し方からして、「試験対策」をする人としてもちろん高校教員もあるが「受験産業」が絡んできて、そこが今回の改革をぶち壊してしまうというようなニュアンスも感じた。

このあたりで時間になり解散となる。

当サイトでは、日本の教育改革に取り組んでいます。次回の報告もできるようであればします。

Dec.01
2015
穴埋め式と記述式の問題の問える力の違い

2021年(2020 年度) にセンター試験が廃止され, 大学入学希望者学力評価テストが実施される予定になっている。その際, 「記述式」の試験を導入し, より細かく受験者の力を把握しようという考えがある一方, それは実施が難しいからということで「マークシートでも十分」という意見もある。

さて, マークシートで試せない力を一つあげよう。それは場合分けに関する問題にある。ちなみに, 場合分けは高校数学の中で重要な要素である。

まず, 次のような問題考えよう。

【問題 1 】
西暦 X 年 (2000<X<2100) の 2 月 1 日は日曜であった。この年の 3 月 1 日は何曜日であるか。

少し考えると, 3 月 1 日が日曜の場合と月曜の場合があることがわかる。そして, どのような場合に 3 月 1 日が月曜になるかもわかるであろう。
記述式の場合は, この問題の答は次のようになる。

X が 4 の倍数のときは月曜日, X が 4 の倍数でないときは日曜日

これを穴埋め方式にすると

X が ( ア ) のときは月曜日, X が ( イ ) のときは日曜日となる。
( ア ), ( イ ) を埋めよ。

このような感じで場合によっては選択しを与えることもある。

さて, 記述式と穴埋め式の大きな違いは, 「場合分けがあるということを自分で気がつくことができるかどうかを問えるか」ということである。穴埋め式の場合は, 「この問題は場合分けがあるよ」ということを教えてくれる。しかし, 記述式の場合は自分自身で場合分けがあることに気がつかなければならない。これは大きな違いである。こういう力を穴埋めで問うのは厳しい。

例えば, 次のような問題を考えてみよう。
【問題 2 】
動点 P が数直線上を次のように動く。
・最初は原点 O にいる。
・さいころを投げ, 偶数の目が出れば点 P は +1 だけ移動し, 奇数の目が出れば -1 だけ移動する。
\(n\) 回後に点 P が原点 O にある確率を求めよ。

この問題も \(n\) が偶数と奇数の場合で分けて答えた方がよいということに自分で気がつかなければならない。しかし, 穴埋めでは「場合分けのある問題だよ」ということを教えてくれる。これでは, 問題の存在価値も半減してしまう。
場合分けのある問題は, どのように場合分けをして考えると効率が良いということを考えることもときには力のいる作業だったりする。やはり, このあたりの力を試すには記述式がかなり向いている。問題は, 記述式の答案をどう評価するかである。記述式にしたとたんいろいろな解法に対する採点基準を用意しておかなければならない。全国規模で行うときに, 公平性が問題になる。

Nov.30
2015
高校数学の似て非なる問題に対し深い意識を持とう (3) - 解答編 2 –

昨日の続きです。
(2) の解答は次のようになります。

 まず, 10 個のボールを 3 人に分配する方法全体(もらわない人がいても可)は全部で,
  \(3^{10}=59049\) (通り)
あります。ここから, ボールをもらわない人がいる場合を除いていきます。
 まず, 1 人の人がすべてのボールをもらう場合は 3 人のだれがすべてをもらうかを考えることで 3 通りになります。
 次に, 3 人のうち 2 人だけがボールをもらう場合は,
  どの 2 人がもらうか・・・ \(_{3}\mbox{C}_{2}=3\) (通り)
であり, 仮に 3 人のうち A と B がもらうとして(他の組でも以下は同じ), A と B だけがボールをもらう方法は,
  \(2^{10}-2=1022\) (通り)
となります。上の式で最後に 2 を引いているのは, A が全部とる場合と B が全部とる場合の 2 通りの分です。
 したがって, 3 人のうち 2 人だけがボールをもらう場合の数は,
  \(3\times 1022=3066\) (通り)
となります。
 以上より, 求める場合の数は,
   \(59049-3-3066=55980\) (通り)
です。

Nov.29
2015
高校数学の似て非なる問題に対し深い意識を持とう (3) - 解答編 1 –

(1) A, B, C がもらうボールの個数を \(x\), \(y\), \(z\) とおきます。このとき,
   \(x+y+z=15\), \(x\geqq 1\), \(y\geqq 2\), \(z\geqq 2\)
が成り立ちます. これを満たす整数 \(x\), \(y\), \(z\) の組の個数を求めればよいのですが, \(x\), \(y\), \(z\) によって条件が異なるので次のように工夫します。
 まず最初に A に 1 個, B に 2 個, C に 3 個与えておき, 残り 9 個を A, B, C に分配します。残り 9 個の分配の方法は,
  \(x+y+z=9\), \(x\geqq 0\), \(y\geqq 0\), \(z\geqq 0\)
満たす \(x\), \(y\), \(z\) の組の個数だけありますが, これは, ○ を 9 個並べそれを 2 つの | で仕切る方法だけありますので,
  \(\displaystyle\frac{(9+2)!}{9!\cdot 2!}=\frac{11\cdot 10}{2\cdot 1}=55\) (通り)
だけあり, これが与えられた条件のもとで 15 個のボールを A, B, C に分配する方法の個数です。
 この解答のように, A, B, C に先に最低限のボールを与えておき, 追加分のボールの個数を数える方法を「先入れ方式」といいます。
 
(2) A, B, C に少なくとも 1 個のボールを与えるので, (1) と同じように「A, B, C に先に 1 個与えて追加分を数える」としてもうまくいきません。具体的には,
 ・最初に A, B, C にボールを分配する方法は \(10\cdot 9\cdot 8=720\) (通り)
 ・次に残り 7 個のボールを 3 人に分配する方法は \(3^{7}\) (通り)
したがって,
   \(720\cdot 3^{7}\) (通り)
とするのは誤りです。これが誤りであることは次のようにも説明できます,
 例えば 10 個のボールを
  ①, ②, ③, ④, ⑤, ⑥, ⑦. ⑧, ⑨, ⑩
とします。
(例 1) 最初に A, B, C に順に ①, ②, ③ を与えます。
  A (①   ), B (②   ), C (③   )
次に, 残りボールをすべて A に与えると次のようになります。
  A (①, ④, ⑤, ⑥, ⑦, ⑧, ⑨, ⑩), B (②   ), C (③   )
(例 2) 最初に A, B, C に順に ④, ②, ③ を与えます。
  A (④   ), B (②   ), C (③   )
次に, 残りボールをすべて A に与えると次のようになります。
  A (④, ①, ⑤, ⑥, ⑦, ⑧, ⑨, ⑩), B (②   ), C (③   )
先ほどの \(720\cdot 3^{7}\) (通り) は (例 1) と (例 2) を区別して数えた結果ですが, 実際には (例 1) と (例 2) は同じ分け方になります。したがって, この場合は「先入れ方式」は通用しません。
 

分けるものを区別する場合は「先入れ方式」を用いてはならない


長くなったので (2) の解答は明日の記事で扱うことにします。