数学教育研究所 公式サイト Mathematics Education Institute Official Web Site
Nov.24
2015
高校数学の似て非なる問題 (1) – 問題提起編 –

高校数学である程度力がついたかどうかを試す方法として、「似て非なる問題」をきちんと解決できるかを試す方法があります。

ここではシリーズ化して一つの学習方法を述べていきたいと思います。

今回の問題は次のようなものです。まずは解いてみてください。

 

【問題1】
\( 0\leqq x\leqq 2\pi \) のとき \( f(x)=a\sin x+\sqrt{4-a^{2}}\cos x \) の最大値を求めよ。ただし、\( a \) は \( 0<a<2\) を満たす定数とする。
【問題2】
\( 0\leqq x\leqq 2\pi \) のとき \( f(x)=x\sin x+\cos x\) の最大値を求めよ。

 

問題の正解は明日提示します。

Nov.23
2015
問題の出し方の工夫1 (回答編)

一見するとこの積分は \( \sqrt{(x+3)^{2}-12x} \) という多少ドキッとする形をしていますが、計算を進めるうちに

$$\sqrt{(x+3)^{2}-12x}=\sqrt{(x^{2}+6x+9)-12x}$$

$$=\sqrt{x^{2}-6x+9}$$

$$=\sqrt{(x-3)^{2}}$$

のようになることに気がつくと思います。そこで、この積分を

$$\displaystyle\int_{0}^{4}(x-3)\,dx$$

と変形して計算するとこの段階で誤りが発生します。
実は、この積分の出題意図は「積分ができるか」ではなく、
$$\sqrt{(x-3)^{2}}=|x-3|$$
と変形できるかということだったのです。これを直接  \(\sqrt{(x-3)^{2}}\)  の形で問うと解く人は警戒するか意図がわかってしまいます。もちろん、そこで正しく変形できることは大切ですが、
「\(\sqrt{(x+3)^{2}-12x}=\sqrt{(x-3)^{2}}\) となることがわかった!」
ということでほっとして気が緩んだ?状況でもこの先正しい計算ができることが真に計算が身に付いていると言えるのです。

数学の理解について次のように分けることにします。
第1水準: 注意して解けば正しく解ける
第2水準: 特に意識しなくても間違わずに解ける

例えば、
「\(\mbox{AB}=4\), \( \mbox{BC}=5\),  \(\mbox{CA}=6\) のとき \(\cos \angle\mbox{ABC}\) を求めよ。」
という問題に対し、これは 3 辺の長さが与えられているから余弦定理を使う問題だと考えて解くのは第1水準レベル、特に余弦定理と意識しなくても求めてしまうのが第2水準レベルです。
ある程度難しい問題を解くためには、第2水準レベルの理解をしているものを増やすことが大切です。

定積分の計算は次のようになります。

\(\displaystyle\int_{0}^{4}\sqrt{(x+3)^{2}-12x}\,dx=\displaystyle\int_{0}^{4}\sqrt{(x-3)^{2}}\,dx\)
\(=\displaystyle\int_{0}^{4}\,|x-3|\,dx\)
\(=\displaystyle\int_{0}^{3}\{ -(x-3)\}\,dx+\displaystyle\int_{3}^{4}(x-3)\,dx\)
\(=\cdots\)
\(=5\)

 

Nov.22
2015
問題の出し方の工夫 1 (問題提起編)

例えば, 次の積分を求めてください。
$$\displaystyle\int_{0}^{4}\sqrt{(x+3)^2 -12x}\,dx$$
解いてみてから、この問題の出題意図は何であったと考えますか。

 

これに対する回答は明日載せます。

Oct.13
2015
書籍に関する意見を募集しています。

高校生、高卒生の受験生に伺います。それ以外の方でもかまいません。
今、当社では「計算のエチュード」「教えられない数学」などのように通常の受験参考書とは異なる切り口で、これまでに受験生に人気のあった受験手法を扱った書籍の販売を検討しています。本当は、出版していただける出版社があればそこにお願いするのですが、過去の実例からこのような新種の本の刊行には理解してもらえるまでに多くの労力がかかるのですぐに見つかる場合以外は時間がかかるため今回は控える予定です。
そこで、安価で受験生に提供するために当社のもつ販売ルートを使って多くの受験生に届けたいとは思うのですが、当社としても売れれば売れるほど赤字になるという設定ではやりにくく、薄利でよいのでわずかながらこの本のために努力していただいた人件費を支払わなければなりません。こういうことで、今、次のような設定を考えていますが、どちらの方が望まれるでしょうか。意見を聞かせていただけると助かります。

A案: A5版 250 ページ 値段の設定は 1500 円、300 ページになると 1800 円くらい
字の大きさは通常の参考書と同じ位。
長所: これまで通りに使える。 短所: 値段の設定が高い

B案: 新書サイズ 250 ページで値段は 1000 円、300 ページになると 1200 円くらい
次の大きさは新書サイズで 8 ~ 9 ポイント程度。
長所: 比較的安価で提供できる。電車の中でも読むことができる。短所: 次が小さいので見にくい。

 

投稿していただいた方へ

貴重な意見をありがとうございました。使い慣れたA5版がよいと考える方が多いということもわかりました。ただ、高校生には1500円という値段は決して安くはないので、そのことを忘れずに今後も取り組んでいきたいと思います。

みなさんの丁寧な対応には感謝します。

Sep.07
2015
教科書の悪い伝統

数学の公式の覚え方は「絵」として見るのではなく(画像認識ではなく),「構造」を見るべきである。例えば, ベクトルaとベクトルbの始点を一致させたとき, 2 つのベクトルの終点を通る直線上を指すベクトルxは,
$$\vec{x}=(1-t)\vec{a} +t\vec{b}$$
のように表される。これを何十回も唱えて覚えたところで, 違う記号で問題が出されたときはなかなか対応ができない。こういう式は, a と b の係数 1-t, t が「和が1である」ことを見抜き, 「和が 1 である係数で表される」と認識すべきである。そうでないと, 「意味の分からないで暗記さえすればよい」となる。あたかも呪文を唱えるように。これは数学の教育ではない。

さて, 教科書の中に伝統的にそれに近いところがある。それは, 数学Iの三角比の余弦定理の部分である。
三角形 ABC において BC=a, CA=b, AB=c とするとき,
(1) $$a^2 =b^2+c^2 -2bc \cos A$$
が余弦定理であるが, ほとんどの教科書には, 上記の他に
(2) $$b^2 =c^2+a^2 -2ca \cos B$$
(3) $$c^2 =a^2+b^2 -2ab \cos C$$
が書かれてある。これは意味がない。というよりも, 3 本書くことはむしろ害である。
生徒は, この 3 本の式を覚えようとするだろう。しかし, 3 本覚えても三角形の 3 辺の長さが a, b, c ではなく p, q, r であれば使えない。もしも,
「(1) の a, b, c の部分を p, q, r に当てはめればよい」
というのであれば, 最初から (2), (3) などない方がよい。
(2) と (3) の存在は, 数学教育の立場からすれば無用の長物である。しかし, 何十年も教科書にはこの 3 本が書かれる。
もしかすると, 正弦定理との記述の兼ね合いがあるのかもしれないが, 正弦定理は正弦定理で今の状況とは少し異なる。
教科書においては, 三角形の面積も
$$S=\frac{1}{2} bc \sin A =\frac{1}{2} ca \sin B =\frac{1}{2} ab \sin C$$
が書かれていたり, $$\cos A=\frac{(b^2+c^2-a^2)}{2bc}$$ も 3 通り書かれていたりする。
これも意味がないのだが、伝統的な記述である。

Aug.28
2015
数学のカリキュラムについて

ここ 40 年の高校数学のカリキュラムは大きな変化がありました。一般に物理, 化学, 生物等の理科は, 日進月歩の世界ですので 30 年前, 場合によっては 10 年前のものは「古い」ということは珍しくありません。それに対し, 数学は 100 年前に証明されたことが現在でも通用する学問です。このように変化の多い「理科」と変化の少ない「数学」ですが, 日本の高校数学のカリキュラムは理科以上に変化します。
数学教育研究所では, 恒常的に数学および理科のカリキュラムの研究も行なっていますが, 数学のカリキュラムに対しては「現行課程」「旧課程」「旧々課程」等の名称では混乱すると考えました。そこで, 現在からみた「相対的な名称」ではなく「絶対的な名称」も必要と考え次のように名づけました。当面, 次の名称でそれぞれの課程を呼び, 話を進めていきたいと思います。。

1. 昭和 57 年(1982 年)入学者からのカリキュラム  「分野分離カリキュラム」
主な特徴: それまでの I,IIB,III から, 「代数・幾何」「基礎解析」など分野ごとに分かれた。

2. 平成 6 年 (1994 年)入学者からのカリキュラム  「ゆとりカリキュラム」
主な特徴: その名の通り「ゆとり」を全面に打ち出し, 大幅に内容が減らされた。このカリキュラムから現行のI,II,III,A,B,C という名称が使われた。

3. 平成 15 年 (2003 年)入学者からのカリキュラム  「ゆとり修正カリキュラム」
主な特徴: 「ゆとりカリキュラム」のやりすぎに疑問をもつものの, 一度定めた方向は変えにくく, 基本的には「ゆとりカリキュラム」の考えを踏襲しつつ, 厳しい制限を緩めた。

4. 平成 24 年 (2012 年)入学者からのカリキュラム  「脱ゆとりカリキュラム」
主な特徴: 表現はともかく, 実質的には「ゆとり」の名による学習量減少を否定した内容になった。戦後初めて, 前回よりも内容量が増えたことは大きな特徴である。また, 「データの分析」(統計分野)が必修科目になるなどの特徴がある。

5. 平成 35 年 (2023 年)入学者からのカリキュラム  「アクティブカリキュラム」
主な特徴: 現段階では, 正式なものは発表されていない。ただし, 学習指導要領がきちんと実施されていないとか生徒が受け身の教育ではよくない, 自ら考える判断する教育を目指すことから「アクティブ・ラーニング」という用語が多用されるようになった。これにより, 従来の指導要領では学習内容を中心に言及していたものを, 指導の方法にまで踏み込んだ点が特徴的である。ただし, この内容は今後変化する可能性があることも言及しておく。

この名称は今後皆様からよい名称が提案されれば修正していきたいと考えています。

Aug.24
2015
質問等に関するおねがい

いつもこのホームページをご覧いただきありがとうございます。

このページに関する次の利用ルールについてご理解いただきたいと思います。
1. 数学の質問には原則答えることはいたしません。ただし、このホームページに書いた数学の内容に直接関係することであればできる範囲でお答えします。しかし、問題の持ち込みに対する返答はいたしかねます。数学の学習法に関する質問もこれと同様です。
2. 予備校等の授業で発生した質問は、そちらのルールに従ってください。こちらでの直接の質問に対する返答はいたしかねます。
3. こちらの運営、企画に関する質問は可能な範囲でお答えします。ただし書籍に関する件など他社も関係する話題については他社の許可をとってからの対応になることもあります。

このルールをどうぞご理解ください。

Aug.21
2015
当社のロゴについて

当社のロゴは下のようになっています。(トップページにもあります。また、上の会社名の左にあるものがそれです。)

これは、「受験数学の理論」第11巻にある問題で、それは正方形の中にある3点が最も距離を置いて配置するとどのようになるかという問題です。
例えば、正方形の形の部屋にお互いに離れて座りたいという事情があったとしましょう。それは「臭い」「うるさい」などの理由かもしれません。
そういうときに3人の距離の最小値を最大にする座り方はどのようなものかと言えば、ロゴのように正方形の中にある正三角形の頂点なのです。

このように身近な問題に興味をもち、それを数学的、あるいは数理科学的に解決する力をつけるような教育の仕方を考えて行きたいというのが当社の理念の一つでありますのでこのロゴが採用されました。
色の意味はあるのですが、次期に説明します。

logomei

Aug.14
2015
プラスエリートのお知らせ

受験数学の理論の現行課程版についてお知らせします。
受験数学の理論の後継版は、書名については正式に決定したわけではないのですが、その呼び名の一つに「プラスエリート」が定着する可能性が高いので、今後しばらくはこのように呼ぶこととします。
「プラスエリート」とは「(通常の高校数学の範囲)+(エリート向け)」という意味があります。
「エリート」と言っても敷居の高いイメージのものでもなく、よそよそしい感じのものでもありません。
きちんと数学の本質から、ごまかさずにきちんと考え、納得して学問に取り組もうという人をあえて「数学のエリート学習者」とし、そのような人に力になれるものという意味があります。

従来の「受験数学の理論」と同様に、高校数学にとらわれずに99.997%の高校生はこの本を超えることはないであろうという深い内容です。もちろん、全員が必要な部分とそうでない部分とに分けてあります。
とくにこの本の付録Cにある「未来の研究者のために」は数学を得意とし、しかも数学好きな数%の高校生のために丁寧に説明してあります。

このシリーズは受験数学の理論とは異なり、「数学IA」「数学IIB」「数学III」という構成になっています。
母体は「受験数学の理論」の原稿ですので、これまでのものをほぼ3冊にまとめたと言えるので1冊あたりはかなり厚くなります。

「受験数学の理論」と「プラスエリート」の大きな違いの一つは、「節末問題」「章末問題」などの問題がついたところです。ただし、この問題は「問題を解くことによって理解を深める」ためのものですので、本格的な受験問題集ではありません。受験問題集は他に用意する必要があります。
また、徹底的に本物にこだわるといった姿勢があります。不用意な省略はありません。また、図も正確なものを使っています。もう少し詳しく言えば、関数のグラフは正確なものか、縦横に変倍したものに限り、例えば、「放物線」なのに「放物線ではない図」を使うことはありません。これ以外にも、おそらく読者のほとんどは気づかないであろう工夫がされています。
たいていの受験参考書は受験が終わると役目を終え、捨てられるか、売られるかということが多いのですが、本書にとっては「買った人の財産になるもの」、「大学入学以降をとっておく価値があるもの」を目指して作られました。

すでに「数学IA」の原稿は提出し、校正を残すのみとなっているので刊行は時間の問題となりました。

今現在は「数学IIB」と「数学III」の受験数学の理論の原稿をまとめ、追加原稿の執筆を行なっているところです。
進捗状況は定期的に行いたいと考えていますので、今後ともよろしくお願いします。

著者

Aug.14
2015
「数学の計算革命(改訂版)」が発売されました。

「数学の計算革命 (改訂版)」が発売されました。
この本の使用法、最新情報等はこのサイトでお知らせします。

受験生の皆さんのお役にたてればよいなと考えています。

著者