数学教育研究所 公式サイト Mathematics Education Institute Official Web Site
Nov.29
2015
高校数学の似て非なる問題に対し深い意識を持とう (3) - 解答編 1 –

(1) A, B, C がもらうボールの個数を \(x\), \(y\), \(z\) とおきます。このとき,
   \(x+y+z=15\), \(x\geqq 1\), \(y\geqq 2\), \(z\geqq 2\)
が成り立ちます. これを満たす整数 \(x\), \(y\), \(z\) の組の個数を求めればよいのですが, \(x\), \(y\), \(z\) によって条件が異なるので次のように工夫します。
 まず最初に A に 1 個, B に 2 個, C に 3 個与えておき, 残り 9 個を A, B, C に分配します。残り 9 個の分配の方法は,
  \(x+y+z=9\), \(x\geqq 0\), \(y\geqq 0\), \(z\geqq 0\)
満たす \(x\), \(y\), \(z\) の組の個数だけありますが, これは, ○ を 9 個並べそれを 2 つの | で仕切る方法だけありますので,
  \(\displaystyle\frac{(9+2)!}{9!\cdot 2!}=\frac{11\cdot 10}{2\cdot 1}=55\) (通り)
だけあり, これが与えられた条件のもとで 15 個のボールを A, B, C に分配する方法の個数です。
 この解答のように, A, B, C に先に最低限のボールを与えておき, 追加分のボールの個数を数える方法を「先入れ方式」といいます。
 
(2) A, B, C に少なくとも 1 個のボールを与えるので, (1) と同じように「A, B, C に先に 1 個与えて追加分を数える」としてもうまくいきません。具体的には,
 ・最初に A, B, C にボールを分配する方法は \(10\cdot 9\cdot 8=720\) (通り)
 ・次に残り 7 個のボールを 3 人に分配する方法は \(3^{7}\) (通り)
したがって,
   \(720\cdot 3^{7}\) (通り)
とするのは誤りです。これが誤りであることは次のようにも説明できます,
 例えば 10 個のボールを
  ①, ②, ③, ④, ⑤, ⑥, ⑦. ⑧, ⑨, ⑩
とします。
(例 1) 最初に A, B, C に順に ①, ②, ③ を与えます。
  A (①   ), B (②   ), C (③   )
次に, 残りボールをすべて A に与えると次のようになります。
  A (①, ④, ⑤, ⑥, ⑦, ⑧, ⑨, ⑩), B (②   ), C (③   )
(例 2) 最初に A, B, C に順に ④, ②, ③ を与えます。
  A (④   ), B (②   ), C (③   )
次に, 残りボールをすべて A に与えると次のようになります。
  A (④, ①, ⑤, ⑥, ⑦, ⑧, ⑨, ⑩), B (②   ), C (③   )
先ほどの \(720\cdot 3^{7}\) (通り) は (例 1) と (例 2) を区別して数えた結果ですが, 実際には (例 1) と (例 2) は同じ分け方になります。したがって, この場合は「先入れ方式」は通用しません。
 

分けるものを区別する場合は「先入れ方式」を用いてはならない


長くなったので (2) の解答は明日の記事で扱うことにします。

Nov.28
2015
高校数学の似て非なる問題に対し深い意識を持とう (3) - 問題提起編 –

今回はグループ分けの問題です。次の 2 つの問題を比較しながら考えてみてください。

【問題 1 】
(1) 区別のない 15 個のボールを 3 人 A, B, C に分配する。ただし, A には少なくとも 1 個, B には少なくとも 2 個, C には少なくとも 3 個のボールを分配するものとする。ボールの分配の方法は何通りあるか。

(2) 10 個のボールに 1 から 10 までの番号が振られている(すなわち, ボールは区別する)。この 10 個のボールを 3 人 A, B, C に分配するとき分配の方法は何通りあるか。ただし, どの人も少なくとも一つはボールをもらうものとする。

Nov.27
2015
高校数学の似て非なる問題に対し深い意識を持とう (2) - 解答編 –

2 次方程式の判別式に関する問題です。判別式を利用して, 2 次方程式が実数解をもつかどうかを判別できるのは, 係数がすべて実数の場合です。問題 1 は係数がすべて実数ですが, 問題 2 には係数が虚数のものがありますから, 判別式を利用して方程式が実数解をもつかどうかの条件は得られません。問題 2 は答が \(k\leqq 3\) とならないように注意してください。

【問題 1 】
 与えられた 2 次方程式の判別式を \(D\) とおくと, 実数解をもつ条件は,
  \(\displaystyle\frac{D}{4}=(2a+1)^{2}-a^{2}\geqq 0\)
   \((3a+1)(a+1)\geqq 0\)
   \(a\leqq -1\) または \(a\geqq -\displaystyle\frac{1}{3}\)

である。
【問題 2 】
 与えられた 2 次方程式は,
  \((x^{2}-4x+k)+(-2x+4)i=0\)
ここで, \(x\) と \(k\) は実数なので,
  \(\left\{ \begin{array}{l} x^{2}-4x+k=0\\
-2x+4=0\\
\end{array}\right.\)

となり, これを解いて, \(x=2\), \(k=4\) を得る。
 よって,
  \(k=4\)

Nov.26
2015
高校数学の似て非なる問題に対し深い意識を持とう (2) - 問題提起編 –

今回は, 方程式に関してです。次の問題を解いてみてください。
【問題 1 】
 2 次方程式
   \(x^{2}-(4a+2)x+a^{2}=0\)
が実数解をもつような実数 \(a\) の条件を求めよ。
【問題 2 】
 \(k\) を実数とする。このとき, 2 次方程式
    \(x^{2}-2(2+i)x+k+4i=0\)
が実数解をもつような \(k\) の条件を求めよ。ただし,\(i\) は虚数単位である。

Nov.25
2015
高校数学の似て非なる問題に対し深い意識を持とう (1)  – 解決編 –

どちらの問題も \(p\sin x+q\cos x\) 型の式ですが、問題1の方は、\(p\), \(q\) に相当する値が定数であるのに対し、問題 2 は \(x\) の入った式になっています。
したがって、問題1の場合は、三角関数だけからなる式なので、このような場合は三角関数の諸公式(加法定理・2倍角の公式・半角の公式など) が活かせないかをまず考えてみるとよいでしょう。これに対し、問題2の方は多項式と三角関数が組み合わさった式になっているので、このような場合は三角関数の公式を使ってもうまくいかないことが多く微分を使うことになります。
問題1のような「三角関数だけ」からなる式の場合も微分を使うこともありますが、その前に三角関数の公式だけで解決できないかを考えることを勧めます。

念のため解答は次のようになります。
【問題1】
\(f(x)\) を三角関数の合成を行なって、
\(f(x)=\sqrt{a^{2}+(4-a^{2})}\sin (x+\alpha)\)
      \(=2\sin (x+\alpha )\)

と変形します。ただし、\(\alpha\) は \(\cos\alpha =\displaystyle\frac{a}{2}\), \(\sin \alpha =\displaystyle\frac{\sqrt{4-a^{2}}}{2}\) を満たす実数とします。\(x\) の取りうる範囲は, \(0\leqq x\leqq 2\pi\) ですから \(\sin (x+\alpha )=1\) となることができて、このとき \(f(x)\) は最大値 2 をとります。

【問題2】
\(f'(x)=\sin x+x\cos x-\sin x=x\cos x\) ですから, \(f(x)\) の増減は次のようになります。

\(x\) 0 \(\cdots\) \(\frac{\pi}{2}\) \(\cdots\) \(\frac{3}{2}\pi\) \(\cdots\) \(2\pi \)
\(f'(x)\) + 0 0 +
\(f(x)\)  1 \(\nearrow\) \(\searrow\) \(\nearrow\)  1

したがって, 最大値は \(x=\displaystyle\frac{\pi}{2}\) のときにとる \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。

Nov.24
2015
高校数学の似て非なる問題 (1) – 問題提起編 –

高校数学である程度力がついたかどうかを試す方法として、「似て非なる問題」をきちんと解決できるかを試す方法があります。

ここではシリーズ化して一つの学習方法を述べていきたいと思います。

今回の問題は次のようなものです。まずは解いてみてください。

 

【問題1】
\( 0\leqq x\leqq 2\pi \) のとき \( f(x)=a\sin x+\sqrt{4-a^{2}}\cos x \) の最大値を求めよ。ただし、\( a \) は \( 0<a<2\) を満たす定数とする。
【問題2】
\( 0\leqq x\leqq 2\pi \) のとき \( f(x)=x\sin x+\cos x\) の最大値を求めよ。

 

問題の正解は明日提示します。

Nov.23
2015
問題の出し方の工夫1 (回答編)

一見するとこの積分は \( \sqrt{(x+3)^{2}-12x} \) という多少ドキッとする形をしていますが、計算を進めるうちに

$$\sqrt{(x+3)^{2}-12x}=\sqrt{(x^{2}+6x+9)-12x}$$

$$=\sqrt{x^{2}-6x+9}$$

$$=\sqrt{(x-3)^{2}}$$

のようになることに気がつくと思います。そこで、この積分を

$$\displaystyle\int_{0}^{4}(x-3)\,dx$$

と変形して計算するとこの段階で誤りが発生します。
実は、この積分の出題意図は「積分ができるか」ではなく、
$$\sqrt{(x-3)^{2}}=|x-3|$$
と変形できるかということだったのです。これを直接  \(\sqrt{(x-3)^{2}}\)  の形で問うと解く人は警戒するか意図がわかってしまいます。もちろん、そこで正しく変形できることは大切ですが、
「\(\sqrt{(x+3)^{2}-12x}=\sqrt{(x-3)^{2}}\) となることがわかった!」
ということでほっとして気が緩んだ?状況でもこの先正しい計算ができることが真に計算が身に付いていると言えるのです。

数学の理解について次のように分けることにします。
第1水準: 注意して解けば正しく解ける
第2水準: 特に意識しなくても間違わずに解ける

例えば、
「\(\mbox{AB}=4\), \( \mbox{BC}=5\),  \(\mbox{CA}=6\) のとき \(\cos \angle\mbox{ABC}\) を求めよ。」
という問題に対し、これは 3 辺の長さが与えられているから余弦定理を使う問題だと考えて解くのは第1水準レベル、特に余弦定理と意識しなくても求めてしまうのが第2水準レベルです。
ある程度難しい問題を解くためには、第2水準レベルの理解をしているものを増やすことが大切です。

定積分の計算は次のようになります。

\(\displaystyle\int_{0}^{4}\sqrt{(x+3)^{2}-12x}\,dx=\displaystyle\int_{0}^{4}\sqrt{(x-3)^{2}}\,dx\)
\(=\displaystyle\int_{0}^{4}\,|x-3|\,dx\)
\(=\displaystyle\int_{0}^{3}\{ -(x-3)\}\,dx+\displaystyle\int_{3}^{4}(x-3)\,dx\)
\(=\cdots\)
\(=5\)

 

Nov.22
2015
問題の出し方の工夫 1 (問題提起編)

例えば, 次の積分を求めてください。
$$\displaystyle\int_{0}^{4}\sqrt{(x+3)^2 -12x}\,dx$$
解いてみてから、この問題の出題意図は何であったと考えますか。

 

これに対する回答は明日載せます。

Oct.13
2015
書籍に関する意見を募集しています。

高校生、高卒生の受験生に伺います。それ以外の方でもかまいません。
今、当社では「計算のエチュード」「教えられない数学」などのように通常の受験参考書とは異なる切り口で、これまでに受験生に人気のあった受験手法を扱った書籍の販売を検討しています。本当は、出版していただける出版社があればそこにお願いするのですが、過去の実例からこのような新種の本の刊行には理解してもらえるまでに多くの労力がかかるのですぐに見つかる場合以外は時間がかかるため今回は控える予定です。
そこで、安価で受験生に提供するために当社のもつ販売ルートを使って多くの受験生に届けたいとは思うのですが、当社としても売れれば売れるほど赤字になるという設定ではやりにくく、薄利でよいのでわずかながらこの本のために努力していただいた人件費を支払わなければなりません。こういうことで、今、次のような設定を考えていますが、どちらの方が望まれるでしょうか。意見を聞かせていただけると助かります。

A案: A5版 250 ページ 値段の設定は 1500 円、300 ページになると 1800 円くらい
字の大きさは通常の参考書と同じ位。
長所: これまで通りに使える。 短所: 値段の設定が高い

B案: 新書サイズ 250 ページで値段は 1000 円、300 ページになると 1200 円くらい
次の大きさは新書サイズで 8 ~ 9 ポイント程度。
長所: 比較的安価で提供できる。電車の中でも読むことができる。短所: 次が小さいので見にくい。

 

投稿していただいた方へ

貴重な意見をありがとうございました。使い慣れたA5版がよいと考える方が多いということもわかりました。ただ、高校生には1500円という値段は決して安くはないので、そのことを忘れずに今後も取り組んでいきたいと思います。

みなさんの丁寧な対応には感謝します。

Sep.07
2015
教科書の悪い伝統

数学の公式の覚え方は「絵」として見るのではなく(画像認識ではなく),「構造」を見るべきである。例えば, ベクトルaとベクトルbの始点を一致させたとき, 2 つのベクトルの終点を通る直線上を指すベクトルxは,
$$\vec{x}=(1-t)\vec{a} +t\vec{b}$$
のように表される。これを何十回も唱えて覚えたところで, 違う記号で問題が出されたときはなかなか対応ができない。こういう式は, a と b の係数 1-t, t が「和が1である」ことを見抜き, 「和が 1 である係数で表される」と認識すべきである。そうでないと, 「意味の分からないで暗記さえすればよい」となる。あたかも呪文を唱えるように。これは数学の教育ではない。

さて, 教科書の中に伝統的にそれに近いところがある。それは, 数学Iの三角比の余弦定理の部分である。
三角形 ABC において BC=a, CA=b, AB=c とするとき,
(1) $$a^2 =b^2+c^2 -2bc \cos A$$
が余弦定理であるが, ほとんどの教科書には, 上記の他に
(2) $$b^2 =c^2+a^2 -2ca \cos B$$
(3) $$c^2 =a^2+b^2 -2ab \cos C$$
が書かれてある。これは意味がない。というよりも, 3 本書くことはむしろ害である。
生徒は, この 3 本の式を覚えようとするだろう。しかし, 3 本覚えても三角形の 3 辺の長さが a, b, c ではなく p, q, r であれば使えない。もしも,
「(1) の a, b, c の部分を p, q, r に当てはめればよい」
というのであれば, 最初から (2), (3) などない方がよい。
(2) と (3) の存在は, 数学教育の立場からすれば無用の長物である。しかし, 何十年も教科書にはこの 3 本が書かれる。
もしかすると, 正弦定理との記述の兼ね合いがあるのかもしれないが, 正弦定理は正弦定理で今の状況とは少し異なる。
教科書においては, 三角形の面積も
$$S=\frac{1}{2} bc \sin A =\frac{1}{2} ca \sin B =\frac{1}{2} ab \sin C$$
が書かれていたり, $$\cos A=\frac{(b^2+c^2-a^2)}{2bc}$$ も 3 通り書かれていたりする。
これも意味がないのだが、伝統的な記述である。