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Dec.19
2011
新課程に対する大学と文科省の思惑の差

 来年度から高校数学は新課程の内容が教えられる。今、高校の現場や塾, 予備校ではその有効な対応が求められている。
 私も 12 月 18 日に新課程を題材に教員用のセミナーを行った。高校の先生達の関心は非常に高く、12 月 23 日に実施される同じ講座は満員になっていると聞く。

 まず、この後のテーマに触れる前に簡単に新課程の説明をしておこう。
新課程は、数学 I (3), 数学 II (4), 数学 III (5), 数学 A (2), 数学 B (2) からなる。( ) 内は標準単位数である。新課程から数学 C が消え、一部、数学 III に統合された。新課程で学習する具体的な内容を紹介すると、

  数学 I :「数と式」「図形と計量」「二次関数」「データの分析」
  数学 II  : 「いろいろな式」「図形と方程式」「指数関数・対数関数」「三角関数」「微分・積分の考え」
  数学 III : 「平面上の曲線と複素数平面」「極限」「微分法」「積分法」
  数学 A :「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」
  数学 B :「確率分布と統計的な推測」「数列」「ベクトル」

である。今回から「データの分析」が数学 I に配置されたが, この意味は大きい。現行課程においても統計分野の内容は数学 B, 数学 C で扱われているが、数学 B, 数学 C はその中にある 4 項目から選択されるものであるから, 教科書にはあるが, 学習される機会はほとんどなかった。例えば、現行課程の数学 B は

  「数列」「ベクトル」「統計とコンピュータ」「数値計算とコンピュータ」

の 4 項目から 2 項目を選んで学習するのだが、ほとんどの学校は「数列」と「ベクトル」を選択して「統計」は学習しないのが現実である。したがって、「統計」はこれまでは「避けて通れる」分野であったのだが、新課程では数学 I に配置されることから「必修分野」になった。
 なお、一部の団体が、統計分野が扱われることを「新課程の目玉」とか「必修分野なのだから」と強調し、統計分野だけのために対策講座を開いて、いかにもこれからの大学入試の中心になりうるとばかり宣伝しているところもあるが, それは私に言わせれば大げさである。

 それでは本題に入ろう。

 平成 23 年 11 月に東京大学から平成 27 年に実施される新課程の第 1 回目の入試科目に関する案内があった。
それはこちらにある。

http://www.u-tokyo.ac.jp/stu03/pdf/H27syutudai.pdf
(京都大学はこちら http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news1/2011/111208_1.htm)

この中のどこに注目してもらいたいかと言うと、それは数学 A に関する記述である。
 文科省が考える数学 A は
「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」
の 3 項目から 2 項目を「選択」し 2 単位(週 2 時間の授業)とするものである。どの 2 項目をとるかは学校に任されており、「場合の数と確率」と「整数の性質」を選択するのもよいし、「場合の数と確率」と「図形の性質」を選択するのもよい。
 しかしながら、今回の東大の発表は、この 3 項目をすべて出題範囲とするというものである。つまり、高校の現場では、通常はこの 3 項目すべてを教えることは、時間などの制約によってできないのだが、国立大学である東大が、とれないはずの 3 項目をあえて試験範囲にしたのだ。
(なお、京都大学も同様の措置をとり、私のもとには北海道大学もそのような方向で考えていると言う情報が入っている。他大学も同様なことを行うことは今後十分にありうることである。)
 このようにしたことついて、東大にはもちろんもっともな理由はあることだろう。実は、数学 A の 3 分野はもともと東大がよく出題していたものである。これまでは、「整数の性質」という項目はなかったので、黙って整数問題を出していた感ががあるが、仮に、新課程入試おいて、東大が数学 A の中から
 「場合の数と確率」「図形の性質」
を選択すると言ったならば、わざわざ「整数の性質」を切ったことになるから、「整数の性質は出題されませんよ」というメッセージを与えかねない。したがって、従来の整数問題は出しにくくなるので, 数学 A の 3 分野すべてを出題範囲に入れておくのだと思う。

 このようなことになって、中高一貫校のような時間に余裕のある一部の高校は別にして、ほとんどの高校にとっては「一大事」である。この時期、高校は来年度の配当時間を所定の役所に提出しており、今更数学 A を 3 単位に変えられない。また、再来年度以降も時間を確保できるとは限らない。つまり、もしも他大学も東大にならうとすれば、高校の授業をすべて受けても大学入試の試験範囲はカバーできないという事態になる。妥協策としては、

・とりあえず、数学 A を週 2 時間で授業をし、「夏休み」、「冬休み」などに補習を入れて残り 1 項目を学習する
・「データの分析」の時間を減らし、数学 A の残り 1 項目にあてる

などが考えられる。なお、後で説明するが、「データの分析」は高 1 で学習するより, むしろ高 3 で扱う方が入試対策としては適している。

 私は次のように考える。

 本来、数学 I はすべての高校生が通過する分野であるのだから、その後で学習する分野(数学 II, III の内容など) に役立つものを学習するべきである。例えば、「数と式」は, その後で数学 II, 数学 III を学習するときに必要な知識・考え方であるから、必修科目である「数学 I 」の中に入れるべきである。同様に、「図形と計量」(三角比) と「二次関数」も必修科目である「数学 I」に入れるべきである。しかしながら、「データの分析」はどうであろうか? 実は、「データの分析」で得た知識は、数学 B の中の「確率分布と統計的な推測」で使われる程度であり、数学 B でこの分野を選択しなければ、孤立した分野になってしまう 。ところが, 数学 III の
 「極限」を学習するには数学 B の「数列」を学習することが望ましい
 「複素数平面」を学習するには数学 B の「ベクトル」を学習することは望ましい
わけだから、ほとんどの高校は、数学 B では「数列」と「ベクトル」を学習することにならざるを得ない。したがって、数学 I で「データの分析」を学習したところでそれはあとにつながらない分野であり、孤立した分野なのだ。
こう考えると、「データの分析」高校 1 年生で習ってもそれ以降使わないから大学入試までには忘れてしまいがちなので、高校 3 年生のときにちょっとだけ時間をとるのもよいかもしれない。それがシステムとして可能な高校ならばであるが。

 結局、東大の気持ちを代弁すると次のようなものではないのだろうか。

「『データの分析』はむしろ数学 A の選択項目として、新課程の数学 A の 3 項目のどれか一つを数学 I の中に入れてほしい」

今回の東大の文科省カリキュラムに反した決断には私は敬意を表する。(不良品に対する断固とした態度をとったということで)

 実は、私の聞くところでは(不確かな情報であることを断っておく)、このようなカリキュラムを決める場には、
「実績のある数学者」とその方よりも「やや(?)力の劣るお弟子さん達」(実動部隊) と(出版社上がり(?)の人を含む)「役人」
がいるとのこと。時期大阪市長の橋下氏が「市役所の職員が政治をしすぎる」と言うように、「役人がカリキュラムに口を出しすぎる」とよいことはない。
中には、「私が『行列』をなくしたんです」というように力を誇示する役人もいる。やはり、国の将来を決めるカリキュラムはベストメンバーで考えてもらいたいと思う。

Dec.10
2011
大人と子供の違い

 毎年この時期になると予備校の通常期の授業が終了する。もちろん、受験生はここで勉強をやめるわけではなく、授業の形態を「通常授業」から「講習」に変えて続けるのである。とは言うものの、一応、通常期の授業が終わるわけだから一区切りがつくことには変わりはない。したがって、とりあえず 4 月からの先生と生徒の関係になった人たちにはお別れの言葉を述べて授業を締めくくることもある。そのようなときに話す内容の 1 つを書いてみようと思う。それは「大人と子供の違い」についてである。なお、大人と言えば、日本の法律上の定義は20歳からであるが、予備校の高卒生の場合はほとんどはこの段階では 19 歳以上で、来年は 20 歳になるか、すでになっている人達である。18 歳の高校生に対しても、遠くないうちに 20 歳になるのだから関係なくはない。

 人の考え方は、幼少のときは、特に親の考え方などその人が置かれた環境に大きく左右される。例えば、ある小学生が路上にゴミをポイと捨てたとする。このような場合、悪いのは 100% 小学生であると言えるだろうか? 私は、小学生が全く悪くないとまでは言わないが 100% ではないと思う。それは、親が普段からそのようなことを平気でしていてそのようなことをしてもかまわないと子供に教えている可能性もあるからだ。また、言葉使いが悪い中学生、電車の中で周りの迷惑を考えずに騒ぐ高校生に対しても、このことが悪いことであっても、それが 100% 中学生、高校生の責任かというとそうではないと考える。なぜなら、このような人をとりまく環境 (親、友達など) が、そのようなことをすることは別に悪くはないと考え、そのような中でこれまで育って来たことも考えられるからである。
 例えば、今、あなたのまわりの人が全員、路上に紙くずを投げ捨てるような人であったとしよう。そのような中で育ってきて、それが普通の世界にいるあなたにとっては、路上にゴミを投げ捨てることがよくないことだと気がつくのは難しいのではないだろうか。もちろん、だからといってゴミをポイっとするのがよいことだと言うつもりはない。
 さて、本題の「大人と子供の違い」であるが、子供の場合、ゴミポイが 100% が子供の責任でない(育って来た環境を考慮しなければならない)のに対し、「大人」となったあとは、いくら育って来た環境が不幸であったからと言っても、社会常識からそれは悪いことであるということに気がつかなければならないだと考える。つまり、自分の親の教育のせいにしたり、自分のつらい過去を理由にしてはいけないというのが(大人と子供の)違いであると考える。社会的に見て迷惑なこと、悪いことをした場合に、もちろん育って来た環境のせいでそのようなことをしてしまうことはあるかも知れないが、「悪いことだということにそろそろ自分で気がつかなければならない」というのが「大人」である。
 例えば、電車に乗るときに割りこむことは、たとえあなたの両親がそのようなことをしていて小さいときからそうするように育てられたとしても、「大人」になったら親のせいにはできないのである。そう、大人になれば、今度は悪いのは100%あなたのせいである。

 こう考えると、歳をとってもまだまだ「子供」のままの人も多く見かける。私は、希望する人に大学進学の手伝いをするのが役目であって、その後生徒たちがどのような道を歩んだかは原則わからない。わからなくても、生徒達が確実に、私が考える「子供」から「大人」に変化してもらうのを願っている。

Nov.07
2011
受験数学の理論問題集「図形と式・ベクトル」進捗状況(9)

11月7日現在

 初稿原稿はすべて完成しました。ただ今、組版中です。
すでに、問題編の組版は終えており、校正者に発注済です。
今後は11月20日ころまでに校正者から戻してもらい、11月中に原稿を完成し印刷に回します。
店頭に並ぶのは12月中旬ころかもしれません。(これは、不確かな情報ではあります。)

 

Oct.25
2011
受験数学の理論「図形と式」進捗状況(8)

10月25日現在の受験数学の理論問題集「図形と式」の進捗です。

・問題編の原稿は入稿済み
・解答編 解答編は
 第 1 章「図形を表す方程式」 19 題 (19/19)
 第 2 章「不等式と図形」10 題 (10/10)
 第 3 章「軌跡」16 題 (16/16)
 第 4 章 「平面ベクトル」28 題 (28/28)
 第 5 章「空間ベクトルと空間図形」 25 題 (15/25)
となっています。( ) 内は解答を書きあげた問題の題数です。
・図形と式・ベクトルクリニック (質問文2/3完了)

Oct.20
2011
受験数学の理論「図形と式」進捗状況(7)

10月20日現在の受験数学の理論問題集「図形と式」の進捗です。

・問題編の原稿は入稿済み
・解答編 解答編は
 第 1 章「図形を表す方程式」 19 題 (19/19)
 第 2 章「不等式と図形」10 題 (10/10)
 第 3 章「軌跡」16 題 (16/16)
 第 4 章 「平面ベクトル」28 題 (28/28)
 第 5 章「空間ベクトルと空間図形」 25 題 (7/25)
となっています。( ) 内は解答を書きあげた問題の題数です。
・図形と式・ベクトルクリニック (草案段階)

Oct.14
2011
幸せ物語2011 第8話(10/14更新)

幸せ物語2011はpdfデータで配布しています。ダウンロードの上お楽しみください。

  • 第8話「人生の折り返し(2)」(2011.10.14 up)
  • ————————————————————————
    バックナンバー

  • イントロ(2011.04.17 up)
  • 第1話「幸せなスタート」(2011.05.15 up)
  • 第2話「横と縦」(2011.05.31 up)
  • 第3話「じゃんけんの回数」(2011.06.05 up)
  • 第4話「数学の力とは(1)」(2011.07.10 up)
  • 第5話「6万年の夢」(2011.07.13 up)
  • 第6話「古い知識と新しい知識」(2011.07.30 up)
  • 第7話「人生の折り返し(1)」(2011.10.12 up)
  • Oct.12
    2011
    幸せ物語2011 第7話 最新版(10/12更新)

    第7話につきましてはこちらが最新版となります。
    幸せ物語2011はpdfデータで配布しています。ダウンロードの上お楽しみください。

  • 第7話「人生の折り返し(1)」(2011.10.12 up)
  • ————————————————————————
    バックナンバー

  • イントロ(2011.04.17 up)
  • 第1話「幸せなスタート」(2011.05.15 up)
  • 第2話「横と縦」(2011.05.31 up)
  • 第3話「じゃんけんの回数」(2011.06.05 up)
  • 第4話「数学の力とは(1)」(2011.07.10 up)
  • 第5話「6万年の夢」(2011.07.13 up)
  • 第6話「古い知識と新しい知識」(2011.07.30 up)
  • Oct.12
    2011
    幸せ物語2011(挿絵・マンガ付き版)第6話(10/12更新)

    幸せ物語2011(挿絵、マンガ付き版)はpdfデータで配布しています。ダウンロードの上お楽しみください。

    第6話「古い知識と新しい知識」(2011.10.12 up)

    ————————————————————————
    バックナンバー

  • イントロ(2011.07.10 up)
  • 第1話「幸せなスタート」(2011.07.10 up)
  • 第2話「横と縦」(2011.07.10 up)
  • 第3話「じゃんけんの回数」(2011.07.30 up)
  • 第4話「数学の力とは(1)」(2011.10.04 up)
  • 第5話「6万年の夢)」(2011.10.08 up)
  • Oct.10
    2011
    受験数学の理論「図形と式」進捗状況(6)

    一応、これから 10 日に一度くらいは報告したいと思っています。

    10月10日現在の受験数学の理論問題集「図形と式」の進捗です。

    ・問題編の原稿は入稿済み
    ・解答編 解答編は
     第 1 章「図形を表す方程式」 19 題 (19/19)
     第 2 章「不等式と図形」10 題 (10/10)
     第 3 章「軌跡」16 題 (16/16)
     第 4 章 「平面ベクトル」28 題 (17/28)
     第 5 章「空間ベクトルと空間図形」 25 題 (7/25)
    となっています。( ) 内は解答を書きあげた問題の題数です。
    ・図形と式・ベクトルクリニック (草案段階)

    Oct.09
    2011
    没落過程

    人は一生の中で 1 つ、2 つの「大失敗」はするものだと思う。その「大失敗」を振り返ると多くは何段階か踏んでそこに至るようなものではないだろうか。
    そして、その失敗のきっかけは些細なことだったりする。「些細な段階で止めておけば」と後悔する人も多いのではないだろうか。

    例えば、海外旅行中にラスベガスのカジノで「大借金」をして帰ってくる富裕層の話を聞く。最初は遊び心で始めて小さな「負け」を作り、それを取り返そうとしてかえって「負け」は大きくなる。気がついたらやめられなくなり、悲惨な状況で終わる。そして、振り返ってみると、最初の段階で関わらなければよかったと反省する。

    長年、受験生に向けて授業をしていると「ダメ」になっていく生徒はある一定の経路を通ることがわかる。
    その流れ、すなわち「没落過程」を書くと次のようになる。

    [第1段階] 正常状態 (授業を集中して受けている状態)
    [第2段階] (★)
    [第3段階] 授業中に寝る
    [第4段階] 授業に遅刻するようになる
    [第5段階] 授業をさぼるようになる
    [第6段階] 数学を捨てる (数学の点は悪くても気にならなくなる・悪いのが当たり前だと自分を納得させている)
    [第7段階] 数学を受験科目からはずし、志望校を変更する
    [第8段階] 受験をやめる

    さすがに、いくら「ダメ」になっていくと言っても、たいていは[第8段階]に達する前に受験をむかえる。ただ、何浪もする人には本当に[第8段階]に達する人もいる。
    では、このようにならないためにはどの段階で食い止めるのが一番簡単だろうか?
    それは、先ほどの説明にもあるように最初の段階である。つまり、[第1段階]から[第2段階]に進まないように、ここで食い止めるのがもっとも痛みを伴わない。

    それでは、空欄になっている(★)には何が入るのか。それは次のようなものである。

    (★) 授業中に解答のみを写すようになる。

    数学の授業は問題演習の場合でも、その考えに至る背後の考え、基礎知識の確認、間違えやすい危険なところの説明などがある。
    その上で解答を記す。ところが(★)の段階に進んだ受験生はそこを一切聞かず、ただ解答のみを写すようになる。
    これは、大切な情報を得ようとする気がなくなったからで、このように自分で情報を(自分勝手な判断で)取捨選択するようになると(★)の段階に進んだことになる。
    これが没落の始まりである。