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Nov.03
2018
高校数学解説講座 1


1. コーシー・シュワルツの不等式について

 高校数学で学習する絶対不等式の一つにコーシー・シュワルツの不等式というものがあります。これは,
(1) \((ax+by)^{2}\leqq (a^{2}+b^{2})(x^{2}+y^{2})\)
(2) \((ax+by+cz)^{2}\leqq (a^{2}+b^{2}+c^{2})(x^{2}+y^{2}+z^{2})\)
(3) \((ax+by+cz+dw)^{2}\leqq (a^{2}+b^{2}+c^{2}+d^{2})(x^{2}+y^{2}+z^{2}+w^{2})\)
$$\vdots$$
のような不等式で, 一般には, \(\sum\) 記号を用いて,
$$\left(\sum_{k=1}^{n}a_{k}b_{k}\right)^{2}\leqq \left( \sum_{k=1}^{n}a_{k}^{\,2}\right)\left( \sum_{k=1}^{n}b_{k}^{\,2}\right)  \cdots\cdots\,(★)$$
と表すことができます。ただし, 文字はすべて実数とします。
 ところで, 不等式 (★) の \(n=3\) の場合は,
$$(a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+a_{3}b_{3})^{2}\leqq (a_{1}^{\,2}+a_{2}^{\,2}+a_{3}^{\,2})(b_{1}^{\,2}+b_{2}^{\,2}+b_{3}^{\,2})$$
ですが, これは,
$$\vec{a}=\left( \begin{array}{c} a_{1} \\ a_{2} \\ a_{3} \\ \end{array}\right), \vec{b}=\left( \begin{array}{c} b_{1} \\ b_{2} \\ b_{3} \\ \end{array}\right)$$
とおくと,
  \(\vec{a}\) と \(\vec{b}\) の内積は, 
$$\vec{a}\cdot \vec{b}=a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+a_{3}b_{3}$$
  \(\vec{a}\) と \(\vec{b}\) の大きさは, それぞれ,
$$|\vec{a}|^{2}=a_{1}^{\,2}+a_{2}^{\,2}+a_{3}^{\,2}, |\vec{b}|^{2}=b_{1}^{\,2}+b_{2}^{\,2}+b_{3}^{\,2}$$
ですから,
$$(\vec{a}\cdot \vec{b})^{2}\leqq |\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2}$$
と表せます。この不等式は高校数学での内積の定義を考えれば成り立つことは明らかです。なぜなら,
$$\vec{a}\cdot \vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos \theta (\theta は \vec{a} と \vec{b} のなす角)$$
が内積の定義ですから,
$$(\vec{a}\cdot \vec{b})^{2}=|\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2}\cos^{2}\theta$$
となり, \(\cos^{2}\theta \leqq 1\) ですから, 右辺は,
$$|\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2}\cos^{2}\theta\leqq |\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2}$$
となるので,
$$(\vec{a}\cdot \vec{b})^{2}\leqq |\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2}$$
となるからです。
 さて, \(n=3\) の場合は以上のように考えて説明することも可能ですが, 一般の 2 以上の自然数 \(n\) については, ベクトルの大きさと内積の関係を理由にすることはできません。 4 次元以上のベクトルの大きさと内積が定義されていないからです。
(注)
もちろん, 高校数学を超えれば, ベクトルの大きさと内積を定義することはできます。

 さて, それでは, 一般の場合について証明してみましょう。

証明
 コーシー・シュワルツの不等式
$$\left( \sum_{k=1}^{n}a_{k}b_{k}\right)^{2}\leqq \left( \sum_{k=1}^{n}a_{k}^{\,2}\right)\left( \sum_{k=1}^{n}b_{k}^{\,2}\right)$$
を示すために, 次のような関数を用意します。
$$f(t)=\sum_{k=1}^{n}(a_{k}t-b_{k})^{2}$$
少しわかりにくいかもしれませんが, 例えば \(n=3\) の場合である
$$(a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+a_{3}b_{3})^{2}\leqq (a_{1}^{\,2}+a_{2}^{\,2}+a_{3}^{\,2})(b_{1}^{\,2}+b_{2}^{\,2}+b_{3}^{\,2})$$
を示す場合であれば,
$$f(t)=(a_{1}t-b_{1})^{2}+(a_{2}t-b_{2})^{2}+ (a_{3}t-b_{3})^{2}$$
とおくことになります。
 さて, 話を一般の場合の \(n\) の場合に戻しましょう。このとき \(f(t)\) は次のように変形できます。
$$\begin{eqnarray}
f(t)&=&\sum_{k=1}^{n}(a_{k}t-b_{k})^{2}\\
&=&\sum_{k=1}^{n}(a_{k}^{\,2}t^{2}-2a_{k}b_{k}t+b_{k}^{\,2})
\end{eqnarray}$$
これを \(\sum\) 記号を用いずに書くと,
$$f(t)=(a_{1}^{\,2}t^{2}-2a_{1}b_{1}t+b_{1}^{\,2})+(a_{2}^{\,2}t^{2}-2a_{2}b_{2}t+b_{2})+\cdots +(a_{n}^{\,2}t^{2}-2a_{n}b_{n}t+b_{n}^{\,2})$$
のようになり, これを \(t\) で整理すると,
$$f(t)=(a_{1}^{\,2}+a_{2}^{\,2}+\cdots +a_{n}^{\,2})t^{2}-2(a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+\cdots +a_{n}b_{n})t +(b_{1}^{\,2}+b_{2}^{\,2}+\cdots +b_{n}^{\,2})$$
となるので, 結局 \(\sum\) 記号を用いれば,
$$f(t)=\left( \sum_{k=1}^{n}a_{k}^{\,2}\right)\, t^{2} -2\left( \sum_{k=1}^{n}a_{k}b_{k}\right)\,t+\sum_{k=1}^{n}b_{k}^{\,2}$$
と表せます。ここで,
$$\begin{eqnarray}
A&=&a_{1}^{\,2}+a_{2}^{\,2}+\cdots +a_{n}^{\,2}\\
B&=&b_{1}^{\,2}+b_{2}^{\,2}+\cdots +b_{n}^{\,2}\\
C&=&a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+\cdots +a_{n}b_{n}\\
\end{eqnarray}$$
とおくと, \(f(t)\) は,
$$f(t)=At^{2}-2Ct+B$$
と表せます。なお, 今, 示したい式を \(A\), \(B\), \(C\) を用いて表すと, \(C^{2}\leqq AB\) となります。
 さて, 一般の \(C^{2}\leqq AB\) の説明を始める前に, 例外的な場合である \(A=0\) の場合, すなわち, \(a_{1}=a_{2}=\cdots =a_{n}=0\) の場合に触れておきましょう。この場合は, \(C=0\) でもあるので, \(C^{2}\leqq AB\) は等号で成立します。\(A=0\) の場合は, これで示されたので以下は \(A\neq 0\) の場合を考えることにします。
 再び \(f(t)\) についてですがこれは,
$$f(t)=(a_{1}t-b_{1})^{2}+(a_{2}t-b_{2})^{2}+\cdots +(a_{n}t-b_{n})^{2}$$
のように「2 乗の和」の形で表される式でしたから \(t\) にどのような実数を代入しても \(f(t)<0\) となることはありません。したがって, すべての実数 \(t\) に対して \(f(t)\geqq 0\) であるので, \(f(t)\) を今一度 \(f(t)=At^{2}-2Ct+B\) と見ると, 2 次方程式 \(At^{2}-2Ct+B=0\) の判別式 \(D\) は \(D\leqq 0\) となります。ここで, $$\frac{D}{4}=C^{2}-AB$$ ですから, \(D\leqq 0\) は, $$C^{2}-AB\leqq 0$$ すなわち, $$C^{2}\leqq AB$$ が成立します。これで, コーシー・シュワルツの不等式は示されました。

 ところで, この不等式の等号が成立する場合ですが, これは \(C^{2}=AB\) となる場合, すなわち, 判別式 \(D\) が \(D=0\) となる場合です。元々, \(f(t)\) は,
$$f(t)=\sum^{n}_{k=1} (a_{k}t-b_{k})^{2}$$
と表され, 決して負になることのない 2 次式でしたので, \(D=0\) であることは, ここでは, 「ある \(t\) に対し \(f(t)=0\) となる」ことです。これは, すべての \(k=1,2,3,\cdots ,n\) に対して \(a_{k}t-b_{k}=0\) となる \(t\) の存在すること, つまり,
$$a_{1}t-b_{1}=0, a_{2}t-b_{2}=0,\cdots ,a_{n}t-b_{n}=0$$
がすべて同じ解になることです。これは,
$$\frac{b_{1}}{a_{1}}=\frac{b_{2}}{a_{2}}=\cdots =\frac{b_{n}}{a_{n}}$$
となることです。ただし, 分母が 0 のときは, 分子も 0 とします。

補足
 ここでは, 一般の \(n\) の場合について証明をしましたが, \(n=2,3\) などの場合には次のような証明も可能です。

  • \((ax+by)^{2}\leqq (a^{2}+b^{2})(x^{2}+y^{2})\) について
      \((a^{2}+b^{2})(x^{2}+y^{2})-(ax+by)^{2}\)
       \(=(a^{2}x^{2}+a^{2}y^{2}+b^{2}x^{2}+b^{2}y^{2})-(a^{2}x^{2}+2abxy+b^{2}y^{2})\)
       \(=(ay)^{2}+(bx)^{2}-2ay\cdot bx\)
       \(=(ay-bx)^{2}\)
       \(\geqq 0\)
    したがって
      \((ax+by)^{2}\leqq (a^{2}+b^{2})(x^{2}+y^{2})\)
  • \((ax+by+cz)^{2}\leqq (a^{2}+b^{2}+c^{2})(x^{2}+y^{2}+z^{2})\) について
    同様に次のように変形します。
      \((a^{2}+b^{2}+c^{2})(x^{2}+y^{2}+z^{2})-(ax+by+cz)^{2}\)
       \(=(ay-bx)^{2}+(bz-cy)^{2}+(cx-az)^{2}\)
       \(\geqq 0\)
    したがって
      \((ax+by+cz)^{2}\leqq (a^{2}+b^{2}+c^{2})(x^{2}+y^{2}+z^{2})\)
Oct.15
2018
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Jul.03
2018
2018年出題分野表

いくつかの大学について入試の出題分野をまとめた資料の2018年版を掲載いたしました。

資料としてお使いください。

http://math.co.jp/pc/w_student.php

Apr.25
2018
電子書籍「数学の翼」第7号発売のお知らせ

本日、雑誌「数学の翼第7号」が電子書籍で発売されました。
この号の内容は以下の通りです。

  • みらい設計にお任せあれ 「第2話 神経衰弱が終わるまでの回数
  • 高校数学を学んでいる人のために 「視力検査」
  • Mathmusic 「黄金比」
  • 数学の幸せ物語 「第7話 教育者の条件(後編)
  • 数学教育の隠し味 「ちょっと気になる高校数学用語」

当初の発売予定日よりも大幅に遅れてしまいましたことを心よりお詫び申し上げます。

この雑誌に関する情報は「数学の翼」のページでも随時お知らせしております。
販売価格は360円(税込389円)で、Amazon Kindle のみ対応です。

Feb.24
2018
電子書籍「数学の翼」第6号発売のお知らせ

本日、雑誌「数学の翼」第6号が電子書籍で発売されました。当初の発売予定日よりも大幅に遅れてしまいましたことを心よりお詫び申し上げます。

この雑誌に関する情報は「数学の翼」のページでも随時お知らせしております。
販売価格は360円(税込389円)で、Amazon Kindle のみの対応です。

Jan.02
2018
雑誌「数学の翼」の勧めと漫画家さんの募集

ご覧いただきありがとうございます。

弊社では、多くの人に数学を楽しんでもらいたいという考え方といろいろな数学の形を提案していきたいと考え、昨年9月から「数学の翼」を電子書籍で発行しております。詳しい内容は、専用のページがありますのでこちらをご覧ください。

http://math.co.jp/pc/wing.php

現在は第5号まで刊行されております。「数学の翼」は一般雑誌ですが、大学受験用の内容も含まれ、第5号は早稲田理工系学部を受験する人のためのページもあります。
また、記事の内容も原則としてどの書籍にも扱われていないオリジナルな内容や独自研究、独自情報が中心です。

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内容は、これまでと同様で、毎回3ページの内容を5回分です。白黒の原稿を描いていただきます。セリフ、場面の設定はこちらでしますが、テイストとしてはリアルタッチかそれに近いものを希望しています。数式のフォントが必要となることもありますが、必要があれば画像でこちらで用意します。コマワリなどのそれ以外の部分をどのような形にするかは漫画家さんにお任せをしています。
謝礼についてはページ単位で計算します。また、原稿は買取とさせていただきます。謝礼金額ついて、具体的なものはトップページの「お問い合わせ」からメールお問い合わせください。こちらで考える標準的な金額を支払います。また、問い合わせがあれば、これまでの見本もお渡しします。

気軽にお尋ねください。3ページを5回分を3クール分作成する予定ですので、募集人数は3名です。

 

Jan.01
2018
あけましておめでとうございます。– 今年大切なことを控えている人へ–

皆さま、新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

ここを訪れる方には今年に大学入試、あるいは就職活動など大切なことを控えている人もいるでしょう。そのような人に向けて短いお話をいたします。

例えば、9:00から大学入試が始まるとしましょう。あるいは、10:00から第1希望の就職の採用面接が始まるとしましょう。そして、普段は1時間あれば会場まで到着するとします。しかし、このような場合、普段と同じように1時間前に出る人はどれだけいるでしょうか。なぜなら、もしも、途中で何かの事故が起こり間に合わなければ取り返しのつかないことになるからです。したがって、絶対に遅れてはならないときは多少ハプニングがあっても到達できるように予定を組むのではないかと思います。それに、いざというときには、普段普通にやっていることが難しくなることもあるからです。

さて、大学入試を例にとってみましょう。普段、センター試験で900点満点で750点以下はとったことはなく、実際の試験でも750点とれば十分であるとしましょう。このようなときに、これで安心して何もしなくてもよいでしょうか。

私は、絶対に譲れない重要なことの場合、これで安心してはならないと考えます。「何を当たり前のことを言っているのだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それが最後まで実行できる人とそうでない人が実際にいるので念を押すためにここであえて言ってみているのです。

すなわち、大切なものを控えているときの姿勢は、次の通りです。

   的は真ん中を狙え。

的はどんなに大きくても、また、的の端に当たりさえすればよいとしても、大切なことの場合は的はど真ん中を狙うべきです。譲れないものの場合は、的を当てることは余裕であっても、的のど真ん中を狙うようにしましょう。

これが、私から皆様に言いたいことです。今年の皆さまの健闘を祈ります。

 

Dec.29
2017
電子書籍「数学の翼」第5号発売のお知らせ

本日、雑誌「数学の翼」第5号が電子書籍で発売されました。発売予定日より大幅に遅れてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。
この雑誌に関する情報は「数学の翼」のページでも随時お知らせしております。
販売価格は360円(税込389円)で、Amazon Kindle のみの対応です。

Dec.13
2017
電子書籍「行列と線型変換問題集」発売のお知らせ

本日、電子書籍「行列と線型変換問題集」が発売されました。
既に発売されている「行列と線型変換」の姉妹本で、定価は1200円(税込)です。
なお、この電子書籍はAmazon Kindle のみの対応です。

Nov.28
2017
電子書籍「数学の翼」第4号発売のお知らせ

本日、雑誌「数学の翼」第4号が電子書籍で発売されました。当初の発売予定日より大幅に遅れてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。
第1号から第3号まではプリント・レプリカ形式で発売しておりましたが、Amazon Kindle で同様のデータ形式を受け付けてもらえなくなってしまったため、やむを得ずデータ形式を変更いたしました。これまでと表示が異なる部分があると思いますが、あらかじめご了承ください。
なお、販売価格はこれまでと同じ360円(税込389円)で、Amazon Kindle のみの対応です。