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遠い未来か近い未来か 

受験業界に関わっていると、しばしば次のような問題に悩まされる。それは、

「近い未来をとるか遠い未来をとるか」

ということである。
数学よりも英語の方がもしかするとわかりやすいからまず英語の例で説明しよう。
高校で英語を学んだ人のその後は様々であろうが、大きく次のように分類されるのではないだろうか?
(A) 英語を語学として研究する人
(B) 英語を使って仕事をする人、日々の活動に英語を必要とする人
(C) 英語をほとんど必要としない人

英語を教える人は、普通(A)か(B)であろう。その中で「英語を教える以外の人」あるいは「受験英語を知らない人」は大勢いて、そのような人は
「なぜ、高校のうちに、社会に出て役に立つ英語を教えないのか」
と言って、「受験英語」を教える人を批判する人をよく見かける。そして、「受験英語はくだらない。もっと、高校生にとって遠い未来を見据えた教育をすべきである」と

いった趣旨の発言をする。また、
「どこの大学に入るかが勉強の目的ではない。」
とも言う。私は、この内容については理解できる部分はある。

数学に関しても同様である。もっとも、英語に比べて数学の場合は(A), (B)に関する人はかなり少ない。

英語の場合と同様に数学についても次の対立する2つの意見がある。

(a) [遠い未来型の意見]
高校生には、受験のための「要領」ばかり(?)の数学ではなく、社会に出て役に立つ数学を教えるべきである。そのためには数学の美しさ、楽しさを体験させたい。
内容がわかっていないのに、公式だけ暗記させて意味があろうか?
高校生が学習してほしいのは、遠い未来についても役立つような数学、あるいは数学的な考え方、論理力である。

(b) [近い未来型の意見]
現実的には、まず、大学受験を通過しなければ、高校生はその将来の夢を実現できないのだから、今は、受験に必要な数学を教えるべきである。「社会に出て役立つ数学」などは、受験を通ってからやればよい。
高校生に必要なものは、近い未来に必要な受験を通過するための数学である。

(※一般に、受験数学に関わっていない人は大抵は「受験数学」を誤解しているものである。)

これら (a), (b)どちらの主張にも理はあると思う。
ちなみに、私は (a), (b) を場所と相手によって使い分けている。
この「場所によって使い分ける」というのは、「NPO 等の活動」や「高校の現場指導の一部」では (a) の立場, 塾・予備校の場合は圧倒的に (b) の方のニーズがあるから基本は (b) (しかし, ながらクラスによっては一部 (a)) である。

どの分野・世界も「勝ち組」が支配者となり、「勝ち組」の論理でルールが作られる。数学の場合も例外ではなく、数学で成功した人が自分の体験談をもとに「(a) であるべき」とする一方で, 実際には (b) が必要な制度なのでこの矛盾はいつまでたってもなくならない。
(a), (b) どちらかに偏った意見の人は、今一度、自分とは違う方の考え方も理解するとよいだろう。そうすることで、今よりも高校生のための数学を提供できるような気がする。

This entry was posted on 土曜日, 6月 9th, 2012 at 11:30 PM and is filed under 教育, 数学. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

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