東工大の入試に関して – 父兄との話から –
最近は進学校の父兄と話をすることも多くなり, つい先日もある進学校の「お母様」方の集まりにも「招待」された。その場では学習法や大学進学情報などの話をするわけだが, こちらが「常識」と思われることでも意外と知られていないと感じることも多々あるので, それを少しずつ記していこうと思う。おそらく, 受験生を子にもつ方々にも役立つことと思う。
今回は、東工大入試について。
東工大は, 東大レベルにまで学力が到達しなかった高校生が受ける大学と思われていることが多いようである。例えば「お母様」達の中には
「うちの子は東大は無理だから東工大にするわ」
のような発言があり, その真意は「東大に合格する学力はないので, それよりも少し試験の点数が低くても入れる東工大なら大丈夫かもしれない」であろう。
ところが, これは大きな誤解である。なぜなら, 東工大が入試で選ぼうとしている人は東大のそれとは異なっているからである。
それは両大学の入試おける科目の設定とその配点からもわかる。
まず, 東大理系 の 2 次試験とその配点は
外国語 (120), 数学 (120), 国語 (80), 理科 (120)
これに対して東工大は, まず現行が,
外国語 (150), 数学 (250), 理科 (150+150)
であり, 平成 24 年度からはこれが
外国語(英語) (150), 数学 (300), 理科 (150+150)
に変更され, より数学が重視される。
なお, 詳しい情報だけならここを見ればわかる。
http://www.gakumu.titech.ac.jp/nyusi/g_h24/img/2012AdmissionsGuide-1.pdf
これらを比較してわかることは, 東工大の入試は数学と理科の比重が非常に高いということである。しかも東工大は, 理科を物理と化学に指定しており, その物理と化学を別々に 120 分ずつ試験をしており, このような大学はかなり珍しい。
したがって, 東大が模試の判定で A 判定であっても得点源が英語・国語の場合は, 東工大には受からない可能性もあり, 逆に東大の判定が D であってもそれが英語・国語がまったくとれていないことが原因であれば, 東工大の判定は A になることもある。つまり, 東大合格者と東工大合格者は「相似形ではない」のである。ここが, 誤解が多い部分である。
このような事情であるから, 東大の判定が D である理由が
・数学, 理科の点が取れないから
である場合は東工大を受けても受かる可能性はかなり低いであろう。
逆に, 東大の判定が D である理由が
・英語, 国語の点が取れないから
の場合は, 東工大では望みがある。
近年, 東工大自身が「東工大らしい入試」をすると言っており, 特別入学資格試験 (平成 24 年度から廃止) を試みるなど斬新な入試改革に取り組んでいる様子は外部からも伺われる。ここから
総合学力のある学生をとりたい東大
に対し
理系学力を特化した学生をとりたい東工大
のように, 東大と東工大の「住み分け」を進めているとも見ることができる。
「理系の学力に突出しているものさえあれば東工大に入れる」
ということになるが, このような方向性の一つとして来年度からのセンター試験がある。 東工大の場合, 平成24年度からは大学入試センター試験は, 950 点満点のうち 600 点さえ取れれば 2 次試験に進め, さらにセンター試験の結果はそれ以降用いないことになっている。
(注: 一部の受験生は 900 点満点のうち 570 点が基準点である。)
したがって, 地歴・公民を全く勉強しないでもかまわないということにもなる。これまでは, センター試験の結果が最終合否に関係するから, 少しでも点をとるために, 地歴・公民が苦手であっても学習する意味はあったが, 600 点以上はいくら点をとっても同じなので今後は地歴・公民をまったく学習しない受験生も現れるだろう。例えばセンター試験で
英語 140, 数学 180, 理科 180, 国語 100, 地歴 0
で 600 点になる。
以上のようなことから, 東工大は決して東大を諦めた人が行く大学ではない。
誤解が多いことなので改めて記しておいた。