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中学入試の不思議な慣習

 よく, 中学入試において「中学校の知識を使ってはいけない」と言う話を聞く。
中学校の知識が役に立つ部分としては, 例えば, 1 元 1 次方程式, 2 元 1 次連立方程式などがあげられる。もちろん他にもある。この話がどこまで本当かわからないが, 満更でたらめでもないような感触を受ける。

 私としては、そのような制限は一部の優秀な小学生の才能の芽を摘む行為でしかないと思う。高校数学でもそうだが, 日本の数学教育のよくないところは, 学習範囲を制限するところにある。そして, このような制限は, 小学生の数学の力を大人が「教育的な理由」ではなく, 「政治的な理由」で抑え込む悪しき慣例ではないだろうか。
 もちろん, 「中学校の知識を使ってはいけない」という事情に到達するまでは様々な経緯があったことだろう。「小学校の知識だけでどこまで考える力をもっているか量りたい」というのも理解できないわけではない。しかし, これでは, 小学校のときに中学数学を終えている児童, あるいは高校数学を終えている児童は受からないことになる。また, 連立方程式くらいをしっかり学習していれば, それはそれで中学校での手間は省けるのではないか。もしかして, 中学の先生は「小学校の塾で習うような教え方は嫌いだ!」などと考えているのだろうか。
 優秀な小学生は, 中学数学の知識をもっていながら(あるいは理解する力をもっていながら)それを使わずに, 「中学入試のときだけ, 中学入試にあわせた方式で解く」と言った「大人の対応」をとることになる。中学入試の問題には, 人の一生の中で, そのとき(中学入試を勉強するとき)にしか役立たないことを多く含まれる。例をあげればきりがない。この労力は子供たちには実に無駄である。

 本当に、「中学入試では中学校の知識は使えないのか」という問題に対しては, 私はよく, 中学入試を行っている学校の生徒に
「ここの学校の数学の先生は, 大学入試で教科書に載っていないことに対してうるさいか?」
と聞く。例えば, 「合同式」ですら「入試で使うな」と指導していたり, 「白抜きの Z (整数の集合を表す記号) を入試で使うな」などのように表現にすぎないことまでも厳しく指導するような教員がいるようでは, 中学入試もそう判断している可能性が高いからだ。こういう教員が大学入試を指導しているとなれば, 生徒に無駄な労力を強いていることになる。

 次のような中学入試を行う中学校が出てくると画期的なのだが。それは, 中学校の募集要項で,

「中学入試の算数においては, 中学校の知識を正しく使っていれば, 満点を与えます」

と記してある学校だ。
 すでに実際にあるのだろうか? それは私の不勉強で今のところわからない。

This entry was posted on 金曜日, 12月 20th, 2013 at 11:43 AM and is filed under 教育. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

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