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精密な計算と大雑把な計算

高校数学を教えていると、必要でも教える機会が少ないものや足りない部分がいくつもあるのを感じる。その中の1つとして、「計算」にスポットをあててみよう。
試験の答を求めるために計算するときは、「精密な計算」が要求される。例えば、2 次方程式 x^2 -3=0 の解は ±√3 すなわち, ±3^(1/2) であるが、これを 「約 1.73」とか「1.73 くらい」などと書いては数学の試験では点にならないだろう。他にも例は豊富にあるが、ここで詳しくあげる必要はないだろう。
このような「正確な値を求める計算」、すなわち、「精密な計算」はもちろん大切であるのだが、これに対し「大雑把な計算」は軽視されがちな感じがする。ここでいう「大雑把な計算」とは
n が十分大きいとき 3^n は 2^n よりはるかに大きいとか、極限

lim_(x→∞) (x^3 + 2x^2 + 3x +4)/(4x^3 + 3x^2 +2x +1)

については、分母と分子の最高次で決まるとか、

lim_(n→∞) {(1^2 + 2^2 + 3^2 +・・・・+ n^2)(1^3 + 2^3 + 3^3 + ・・・・ + n^3)}/n^a

が 0 以外の値に収束するような実数 a は分子の次数だけを考えて a=7 であるとか。
また、
x>1 のとき x^3 +2x^2 + (x/(x^2+1)) >3
である、のようにきちんと計算しないで大雑把に様子を調べる計算である。
これらは、試験の答案としては書かれることは少ないか、全くない。それは、試験では「正確な値」「精密な計算結果」が最終的に要求されるからである。そ こで、「なーんだ、答案にはいらないのか〜」となってしまって、「最短経路で合格しよう」と思っている受験生には敬遠される。
ところが、これらの「大雑把な計算」は方針を立てる上できわめて重要である。関数 f(x,y)=・・・・ の最小値を求めたい場合に、「なぜ、先に x で微分するのではなく、y で微分したのか?」 とか、というのは、「大雑把に頭の中で先々の計算を見積もってどちらがよいかを判断したからである。
lim_(n→∞) (log(3^n + 2^n ))/n を求めるときに、なぜ最初に

lim_(n→∞) (log(3^n + 2^n ))/n = lim_(n→∞) log (3^n (1+(2/3)^n))/n

のように log 内を 3^n でくくるのかは n が大きいとき 3^n +2^n ≒3^n と考えたからである。
この「大雑把な計算」は大雑把である代わりに早くなくてはならない。いくつかの方針がたつ問題において、それを一つ一つ丁寧に計算してみて、「これはよい」「これはだめ」と判断していたのでは時間がかかりすぎる。
「大雑把な計算」は試験の解答を支える「見えない部分での作業」であるから、問題集の解答を暗記しているだけの勉強では身に着かない。本当は、数学のできる人の解答ができるまでを「生」で見ているのがよいのであるが・・・・。

これらについては、今執筆中の本にも書くので、出版時期がはっきりすればまたこの場で報告します。

This entry was posted on 土曜日, 11月 20th, 2010 at 12:00 AM and is filed under 数学. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

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