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「合格実績」の理解の仕方

 毎年, この時期あたりから予備校・塾の次年度の生徒募集が開始され, 3 月ころまで徐々に過熱して行く。この生徒募集の宣伝において欠かせないのが「合格実績」だ。この合格実績によって生徒はもとより生徒の父兄は予備校・塾の力を計ることになる。
 特に, 東大合格実績は優秀な生徒を集めたい予備校・塾にとっては重要な宣伝の構成要素である。ところが, この合格実績には明確な基準はない。そもそも基準などは作っても意味があるのだろうかなどの議論もあるくらいだ。しかし, そうであっても現段階では合格実績を発表するところによってその基準が大きく違いすぎると, 現状を知る人ならば誰もが感じることだろう。実際, 「高 3 の 1 年間通して在籍して東大に合格した生徒だけを東大合格実績としてカウントする」塾もあれば, 「中学 1 年のときに在籍しただけ」でカウントしたり, 「自習室を使っただけ」で合格実績にカウントするところもある。これを知れば, 塾を選ぶ高校生, そしてその父兄からすればなんともいい加減な業界と思えることは間違いない。

 しかしながら, このいい加減に見える合格実績について私は次のように考えることにしている。

 国立大学が大学入学試験の受験者への成績開示が行われるようになって数年が経過した。中でも東大は科目ごとに開示しているという細やかさである。以前から指摘されてきたことであるが, 成績開示によってより一層実感するのは合格点周辺での受験者の多さである。特に, 東大の場合は傾斜配点のため小数第 4 位までの表示になっており, そのため小数点以下の差(1 点未満の差)というものが発生し, 小数点以下の違いで合格する人と涙を飲む人を毎年何人も目にしている。ここで東大に合格点より 1 点未満上の得点で合格した P 君の場合を紹介しよう。

 P 君は東大合格のため主に A 塾に通い, B 塾には講習だけ通った。そして, C 塾の自習室を週に 1 回使い, D 塾の無料の体験授業を 1 時間受けた。これでぎりぎり合格したのだが, P 君の場合 A 塾はもちろん, B, C, D 塾のどの一つが欠けていても合格しなかった可能性がある。1 時間しか受けなかった D 塾であっても, もしもその 1 時間がなければ合格点達しなかったかもしれない。したがって, D 塾も合格に貢献したのだからということで合格実績にカウントしようということになる。
 このように, 合格者一人につき合格に多少なりとも貢献した塾がいくつも存在することがあるので, 「合格実績」という言葉が本来理解される意味とは異なって使われているのではないだろうか。このようなことなので, 「合格実績」という言葉の中には, どのくらい合格に貢献したのかがあいまいであるため, ちょっとでも合格に貢献したと思える場合は合格実績としてカウントしていると受け止める方がよいだろう。もちろん予備校・塾からすれば, 決して嘘をついているのではないというスタンスである。
そういう意味では, 受験生の父兄も「合格実績」を主張してもよい。

 さて, これまで比較的寛容に「合格実績」を解釈した。ところが, 最近は次のような例もある。今年, 東大理科三類に合格した Q 君の場合である。 東大合格発表の日に本郷キャンパスで自分の受験番号を見つけ喜んでいたところ, どこかの塾から声をかけられ謝礼を払うから合格体験記を書いてくれと頼まれたという。もちろん, その塾に在籍したことにしてその塾を賛辞する体験記である。実は, このようなことは, 偶然この Q 君だけに起った珍しい例というわけではなく, 最近では増えている手法である。
 私は, さすがに合格発表があってからの「合格実績づくり」は反則だと思う。
しかし, それ以上に, 謝礼に釣られてデータの捏造に協力する高校生達に将来の不安を感じる。このような人達が, 将来医者になったり官僚になったりするのだ。私のまわりのベテランの先生には, 「東大に入れるべきではない人を東大に入れてしまった」と嘆く人もいる。
 来年の東大合格者には, 1万円程度のお金に釣られることで, それよりも大切なものを失わないでほしいと思う。

This entry was posted on 土曜日, 12月 24th, 2011 at 11:52 PM and is filed under 教育, 数学, 未分類. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

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