数学の学習の仕方(概論編)
数学の学習において重要なことはいくつもありますが, 学習初期においては次の 3 つの自覚が大切です。今回は, この 3 つについて概要を説明します。どれも「あたりまえ」と思われがちなのですがタイトルに続く例を一度よく読んでみてください。
- わからなくなったらわかるところまで戻ることができること 数学の学習のすべてとまでは言いませんが, 数学の学習でわからない話が出てきたときは, それが出てきた経路をたどり元に戻ろうとする「姿勢」が大切です。なお, 実際に元に戻って示せたかどうかは大切ですがその次のことです。 例えば, 三角関数の 2 倍角の公式 $$\sin 2\theta =2\sin \theta\cos\theta$$ $$\cos 2\theta =\cos^{2}\theta -\sin^{2}\theta$$ を忘れたとします。この 2 倍角の公式を丸暗記するかどうかがここでの論点ではありません。この 2 倍角の公式がすぐに出てこないときに, それよりも基本である「三角関数の加法定理」に戻ってそこから 2 倍角の公式を導き出そうとしようとするかどうかが大切です。 この他にも, 三角関数の和積公式なども忘れたときに, これが導き出された経緯を考えて遡ろうとする姿勢が大切なのです。
- 初めて見るものについては, その定義に厳格に従うこと 「これどうなのだろう?」と思ったときに定義に戻り, その定義に厳格に従い判断することが大切です。それは, 各自の感覚で判断することの反対のことです。特に, 「見たことがない」「聞いたことがない」「やったことがない」ということを理由に判断することは数学的には全くの無意味です。 では, 一つの例を挙げましょう。 整数 \(a\) が整数 \(b\) の約数であることの定義は, 「\(ax=b\) を満たす整数 \(x\) が存在すること」 です。例えば, 整数 3 がなぜ整数 6 の約数であるかというと, \(3x=6\) を満たす整数 \(x\) (実際に \(x=2\) ) が存在するからです。 さて, それでは「0 の約数」は何なのでしょうか。そのような場合でも独自な判断をするのではなく, 「定義」通りに考えます。定義に従うと, 「\(ax=0\) を満たす整数 \(x\) が存在するような \(a\) のこと」 です。しかし, この場合, 方程式 \(ax=0\) は \(x=0\) がつねに満たします。つまり, \(a\) がどのような整数であっても \(ax=0\) を満たす整数 \(x\) は存在するのです。したがって, 0 の約数はすべての整数ということになります。 次に「互いに素」について考えてみましょう。整数 \(a\) と整数 \(b\) が互いに素であるとは, 「\(a\) と \(b\) の最大公約数が 1 であること」です。もちろんこれと同値な条件を定義にすることもあります。例えば 6 と 35 は互いに素です。では, 「0 と互いに素になる整数 \(x\)」は何でしょうか? これも定義に戻って考えればよいのです。 ・ 0 の約数はすべての整数である ・ したがって, 「0 と \(a\) の最大公約数が 1 」となる \(a\) は \(a\) の約数が 1 だけである となりますから, \(a=\pm 1\) が 0 と 1 が互いに素になる整数です。
- 言葉を正確にとらえる これも当然のことに聞こえますが, 実際はそうならないときが多くあります。例えば, 「無理数と無理数の和は無理数になるとは『限らない』」 という表現ですが, これが 「無理数と無理数の和は無理数『ではない』」 に変えられて理解されてしまうことも多々あります。 2 つの無理数 \(\sqrt{2}\), \(\sqrt{3}\) を加えると \(\sqrt{2}+\sqrt{3}\) ですが, これは無理数です。しかし, \((1+\sqrt{2})+(1-\sqrt{2})=2\) のように 2 つの無理数 \(1+\sqrt{2}\), \(1-\sqrt{2}\) を加えたものは無理数ではありません。したがって, 「無理数に無理数を加えた場合, 結果は無理数になることもあるが, それだけではなく有理数になるケースもある」という主張なので『限らない』という表現になっていますが, これを『ではない』にすると意味が変わってきます。
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on 土曜日, 3月 23rd, 2019 at 2:00 PM and is filed under 高校数学を考える(受験生向け).
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