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私案「東大入試改革」

 近年、大学入試の結果を受験者に開示する(成績開示)ようになってから、そこから多くのことがわかるようになってきた。とりわけ東大の場合は科目ごとに点数を開示してくれるのでそこから多くの情報を得ることができる。
 成績開示が行われる前は、入試に関する情報は「単なる噂」、「直感的推測」にすぎなかった。せいぜい東大合格者を多く出す塾・予備校の合格者情報(合格した受験生の模試のデータなど)が比較的「科学的」な推測と言える程度であったのではないか。そもそも成績開示前に、東大の入学試験の得点が小数第4位まで(例えば、312.4233 点)あるということはどの位の人が知っていたのであろうか?

 さて、成績開示が行われるようになって、実際の入試では自分が何点で合格したのか、あと何点とっていれば合格できたのかがわかるようになった。加えて、東大の場合は科目ごとの成績も開示しているので、どのような得点のパターンで合格したのかもわかるようになった。そして、その結果、合格するには様々なパターンがあることがわかった。例えば、私の知っている東大生には理系で数学が25点で入った人もいる。ちなみに、その人は英語が95点であった。また、3年前の合格者の中には(あくまでも本人談であるが)英語が 2 点で入ったという人もいた。さすがに、英語が 2 点というのはレアのケースであるが、「数学 25 点で合格」というのはそれほどレアなケースでもないことが私の教え子達を見て感じる。であるから、「東大に合格・不合格を分けたのはこの問題である」のような発言はかなり疑問である。なぜなら、数学が 25 点で合格する人と 70 点で不合格になる人にとっての「合否を分けた一題」というのは明らかに異なるからだ。

 「東大入試改革案」と題打ったが、このようなことを考えるのは、上記のことを踏まえて今の東大の入試の科目配点がいささか疑問であるからである。
 先日、私は今年東大に入った大学生5人と現2年生数人と話をした。その中でわかったことは、あくまで理系の場合であるが、「数学が不得意、英語が高得点をとって合格した」という学生は入学後もことごとく数学で苦労しているのに対し、「英語が不得意、数学が高得点で合格した」という学生からは英語で苦労したという話は聞かないからだ。英語が不得意という学生にはセンター試験が 120 点程度だったものもいるのであるが。
 私の勝手な思い込みもあるかもしれないが、英語は多少苦手でも大学に入ってからある領域までは自学できるのに対し、数学が苦手な学生は大学に入ってからもなかなか

自分で補うことができない。理科の物理などもそうであると思う。したがって、数学あるいは理科が苦手で入った学生は苦手なまま理学部、工学部、薬学部、農学部等に進んでしまうのである。
 実は、今の東大理系の2次試験の科目ごとの配点は、かなり前から変化しておらず、

   外国語 120 点、数学 120 点、国語 80 点、理科 120 点

である。私は、これが、「どの教科も 8 割りくらいとらなければ合格できない」というのであれば、この受験科目と配点には意味があると思う。ところが、現状は理一の場合、センター試験で 810 (900 点満点)を取ったとすると 2 次で 220 点もとれば合格するので、例えば、

   外国語 100 点、国語 50 点

をとれば、残りの数学と理科で 70 点であるから、数学 30 点、理科 40 点(あるいはその逆)で合格できるという計算になる。数学が 30 点でよいのなら、いわゆる「暗記数学」でも得点できるし、数学 IIIC を学習しなくてもよい。(実際、数学IIIC をすべて捨てて合格した人もいた。)
このような数学・理科の点で入った人には、入学を許可した大学が許可した以上責任をもって教育すべきではあると思うのだが、実際にはそうでもないようだ。
 参考までに、来年度入試から東工大の2次試験は、

  外国語 150 点、数学 300 点、理科 300 点

である。この場合、よもや数学、理科のとりわけ両方が苦手な人は入学を許可されることはないだろう。
 東大の場合も、そろそろ伝統を見直し、理系の科目の配点を変えるころではないかと思う。特に、数学、理科の点を厚くするとよいのではないかと考える。私の知っている人にもいたが、帰国子女で特に何もしなくても英語だけはできて、残りの数学・理科はあわせて50点でも合格するのは、理系として入学させるのであればどうかなと思う

。英語ができれば、数学・理科はできなくてもよいと思わせていたのでは数学・理科を勉強しなくなるからいろいろな面で悪影響がでることだろう。

 長い目で東大入試を見ていきたいと思う。

This entry was posted on 木曜日, 10月 6th, 2011 at 3:06 AM and is filed under 教育, 数学. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

2 Responses to “私案「東大入試改革」”

  1. 匿名 said:

    確かに、理系の場合は入学後厳しいように
    思います。私は文理融合前の文1後期で数学
    を一切やらずに合格しましたが、入学後
    全く困ることはなく司法試験にも合格したの
    で、少なくとも文1に関しては大学は
    入学させた責任を取れているのではないかと
    思います。

  2. 匿名 said:

    帰国子女の問題は難しいですね。ただでさえ英語において有利なのに,帰国子女枠とかで何もせずに外国語学部に入れたりしますから。

    それはともかくとして,理科・数学ができない人を完全にシャットアウトするのは,国語・英語の配点を下げるだけでは難しい。何が良いかというと,理科・数学の難易度をうんと下げることですね。理科なんかは,何が原因で難しいのかはっきりしていますし,最近の化学なんか暴走しすぎなんで,もう少し難易度を落としてもいいかなと思いますね。

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