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数学教育の基本 (その 1)

高校数学を考える上で前提となる基本知識をここで確認します。
私の個人的な意見も多少含まれます。

【1】科目の構成の基本
文科省の指導要領上の現行カリキュラムでは, 高校数学の科目設定は次のようになっています。( ) 内は単位数です。
「数学 I (3)」, 「数学 II (4)」, 「数学 III (5)」, 「数学 A (2)」, 「数学 B (2)」
これ以外に「数学活用 (2)」という科目があります。
この中で, 数学 I と数学 A および数学活用は中学数学を理解していれば学習可能となっていて, それ以外は,
「数学 II」および「数学 B」は「数学 I」の履修が条件
「数学 III」は「数学 II」の履修が条件
となっています。
ここまでは学習指導要領上の説明ですが, 実際はそうなっていないところもあるので注意が必要です。
例えば, 「数学III」で数列の極限を扱いますが, これを理解するには「数学B」の数列の知識が必要になります。そのようなところはまだいくつもあります。
建て前上は, 「数学 A」と「数学 B」はその中の 3 項目から 2 項目を選択すればよいということになっているので, 例えば「数学 A」であれば, 場合の数と確率, 整数の性質, 図形の性質から 2 項目を選択すればよいということになっていますが, どの 2 つを履修してもよいので, 数学 A の試験を入試で課す場合はあらかじめどれを履修しておくかを指定するか, どの 2 つを履修してきても対応できるような選択問題を含む問題を作成しなければなりません。ただし, 現状は多くの大学は, 数学 A に関しては, 文科省が 2 項目でよいと言っているのに反し, すべてを履修することとしています。ですので, 数学 A は実質 3 単位の教科になっています。数学 B に関しては, 確率分布と統計的な推測, 数列, ベクトルから 2 項目選択することとなっていますが, ほとんどの高校では数学 B を扱うときは, 数列とベクトルを選択し, 確率分布と統計的な推測は扱いません。これはいろいろな原因がありますが,

・大学入試に出題されないこと
・数学 B であるのに, 一部数学 III を必要とする部分がある
・数学 B の他の 2 つの項目(数列・ベクトル)が数学 III の学習の上でも重要である

が主な理由とされています。この項目を数学 III に入れて必修化すればよいという考えもありますが, 当初は文系の高校生にも学習させたいという意向もあり, 数学 B になりました。事実, 統計分野は一部の文系の人たちにも必要な分野です。

【2】 必修科目は数学Iだけ
さて複雑な選択科目ですが, 「だったらすべてを必修にすればよいのでは?」と考える人もいるかもしれませんが, そうはいきません。
一言で「高校」と言っても普通科から農業, 工業, 商業科などさらには音楽高校など高校は多種多様です。例えば, 音楽学校に進み, 将来演奏家を目指す人には「数学II」は必要がないともいえます。もしかすると「数学I」すら不要と考える人もいることでしょう。そこで, 「すべての高校生」に対する「高校」としてのノルマは最小限しておきたいということで, 「高校」での最低限の数学として「数学I」だけが必修となりました。したがって, 平成 31 年から実施予定の「高等学校基礎学力テスト(仮)」の試験範囲は「数学I」のみということになっています。

【3】1 単位
高校の 1 単位の分量とはおおよそ週に 1 時間の授業を行ない, それを年間 35 週授業が行なうことで終える量というのが基本です。
ところが, 実際は年間 35 週授業時間を確保するのは難しく, 特に月曜日は 27 週以下になる学校も少なくありません。そのため, 高等学校の時間割の組み方として, 週に 1 回だけの授業は極力月曜日に入れないとか, 非常勤の講師の授業は月曜はなるべく避けるなどの手法をとるのが基本です。また, 数学 I は本来 3 単位ですが, これを 4 単位にして授業時間数を確保するなどの対策もとられています。

【4】選択科目(「数学 A」「数学 B」) の分量について
すでに説明した通り, 高校での 1 単位の内容量はおよそ 35 時間分です。数学 I, II, III のようにその科目の中の項目をすべて学習するという場合は, その科目の内容量に差があってもかまいません。例えば, ほとんどの教科書は数学 I の「2 次関数」と「データの分析」に使われているページ数は異なります。もちろん, 高校現場でのその項目にかける授業時間数はかなり異なっているようです。
しかし, 「数学 A」「数学 B」のような選択科目ではそのようにはいきません。「数学 A」を例にとってみましょう。「数学 A」は「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」で構成されていますが, どの 2 つを選択しても 35 時間で終わるように文科省側は設計しなければなりません。その結果, この 3 項目はすべて同じ分量である必要があります。したがって, 高校数学としてもう少し詳しく学習すべき項目があったとしてもそこは減らし, また, あまり時間のかからない項目があった場合は, そこにあまり重要ではないことを追加し無理に時間の均等化をはかります。こうしてできたのが現在の数学 A です。ある意味, 苦労した結果できた科目ではあります。

 

(数学教育の基本 (その2) に続く)

This entry was posted on 水曜日, 12月 9th, 2015 at 7:00 PM and is filed under 教育, 数学, 高校数学を考える(教員向け). You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

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