「示せ」と「求めよ」は異なる問題
今回は, 式変形の手法について扱います。まずは, 次の問題に取り組んでみてください。
これは, 2005 年の東工大の問題です。実際は, (2), (3) があってそれは次のような問題でした。
(2) \(n\geqq 1\) に対し \(a_{n}\gt a_{n+1}\gt 0\) なることを示せ.
(3) \(n\geqq 2\) のとき, 以下の不等式が成立することを示せ.
$$a_{2n}\lt\displaystyle\frac{3\cdot 5\cdots (2n-1)}{4\cdot 6\cdots (2n)}(e-2)$$
今回は, (2), (3) に触れず (1) の変形について解説することとします。
さて, 「示せ」と言っている式は, \(a_{n}\) を \(a_{n-1}\), \(a_{n-2}\) を用いて表す式です。そこで, \(a_{n}\) と \(a_{n-1}\) の関係が必要になることから, \(a_{n}\) および \(a_{n-1}\) を具体的に書いてみると次のようになります。
\(a_{n}=\displaystyle\int_{1}^{e}(\log x)^{n}\,dx\)
\(a_{n-1}=\displaystyle\int_{1}^{e}(\log x)^{n-1}\,dx\)
積分記号内の \((\log x)^{n}\) を \((\log x)^{n-1}\) に変えるには「微分すればよい」と考えて次のように部分積分を行ないます。
\(\begin{align}
a_{n}&=\displaystyle\int_{1}^{e}1\cdot (\log x)^{n}\,dx\\
&=\Bigl[\,x(\log x)^{n}\Bigr]_{1}^{e}-\displaystyle\int_{1}^{e}x\cdot n(\log x)^{n-1}\cdot \displaystyle\frac{1}{x}\,dx\\
&=e-n\displaystyle\int_{1}^{e}(\log x)^{n-1}\,dx\\
&=e-na_{n-1}\\
\end{align}\)
すなわち,
\(a_{n}=e-na_{n-1}\) \(\cdots\cdots\,\)①
が成り立ちます。同様に番号を 1 つ下げることで,
\(a_{n-1}=e-(n-1)a_{n-2}\) \(\cdots\cdots\,\)②
が得られます。
さて, ここからが今回のテーマです。これまで得られている①と②からどのようにして, \(a_{n}=(n-1)(a_{n-2}-a_{n-1})\) を得ることができるでしょうか?
一般に, 「求めよ」というタイプの問題は結果の数値がわかっていません。これに対し, 「示せ」というタイプの問題は結果が与えられているので, 結果の形を観察することで現状から何をしなければならないかがわかる場合があります。式変形においては, 「示せとされる式に含まれる文字」に着目する方法があります。
まず, ①および②に含まれている文字を見ます。それは,
\(a_{n}\), \(a_{n-1}\), \(a_{n-2}\), \(n\), \(e\)
です。これに対し「示せ」とされる式に含まれる文字は,
\(a_{n}\), \(a_{n-1}\), \(a_{n-2}\), \(n\)
です。それでは前者にあって後者にない文字はどれかというと \(e\) です。したがって, ① と ② から式変形のどこかで \(e\) を消去しなければ示したい式には絶対に到達しません。そこで, 求めたい式を得るために「\(e\) の消去」を考えることになります。\(e\) を消去するために今回は ① から ② を引いて
\(a_{n}-a_{n-1}=-na_{n-1}+(n-1)a_{n-2}\)
とし, これを変形して
\(a_{n}=(n-1)(a_{n-2}-a_{n-1})\)
を得ることができます。
以上のように「示せ」という問題に対する方針として, 次のようなものが有効な場合もあるということがわかります。
「示せ」という問題で結論の式が与えられている場合は, 結論の式に含まれている文字に注目し, 残っていてはいけない文字を見つけよ。その文字を消去する方針で計算処理を行なうとうまくいくことがある。
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