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教育者の勘違い

 受験生の質問を受けているとき, 妙な話を聞くことがある。例えば

「解答で『 1 次独立』という用語を使ってはいけないのですよね」
とか、
「『垂線の足』という語は使ってはいけないのですよね」

そんなことどこで聞いたの? と聞き返したくなる。ただ、このような質問をしてくる以上、この受験生にこのような情報を与えている人、あるいは書籍があるのは確かであ

る。

受験問題の解答には、どのような立場で書くかによっていくつかの種類がある。それを大きく大別すると

(A) 受験生が入試本番において書く解答
(B) 数学の教育者が学習者に対して示す解答

である。(B) の中にもいろいろとある。それは、
・教室内で先生が生徒に解説を交えながら書く解答
・受験書籍に書く解答
などである。

さて、(A) の場合は解答を書く人(受験生)は、数学のよくわかっている人に向けて書く。だから、小学生に説明するような内容はいらない。

「3 以上の素数はすべて奇数である。なぜ、奇数かというと・・・・」
「三角形 OAB ができているのだからベクトルOA とベクトルOB は1次独立である。ここで、2 つのベクトルが1次独立であるとは・・・・・」

の中の後半の説明を答案の中でしても仕方ない。
これに対し、(B)の「授業中に先生が説明する話」としては、
「わからない人もいるかもしれない」
ということで、念のため話すこともあるだろう。したがって、授業の板書はそのままの形では試験の答案にはならない。
(B) の受験書籍に書く解答では、一般的によく普及されている用語のみを使う。特に、知識の前提は教科書である。教科書にない用語を使うと通じない可能性がある。
だから「垂線の足」という用語は使わずに、別の表現を使う。

数学の先生は、共同作業(模試・テキスト作成)をすることや、授業研修(授業を見てもらい評価を受ける)を受けたりする。
そのときに、
「1次独立という表現は生徒がわからないかもしれないよ。だから、説明なしで使うのはねぇ・・・」
と言われたとする。これは、「先生が生徒を教えるときにする注意」である。
ところが、数学の先生の中にはこれを誤解して、生徒に対しても
「1次独立という語はクレームがつくかもしれないので使わない方がよい」
などと教えてしまう。つまり、
「教育者がすべき注意を受験生にまで強要してしまう」・・・(※)
のである。これはまずい。
 最初に書いた「生徒がもってくる妙な話」によると、(※) のように教えている人もいるんだなと感じる。

受験生に限らず人は、先に入った情報が優先される。ときにはそれは後から入る正しい情報を拒否することもある。
ある事項を最初に生徒に教える教育者は注意してほしい。

This entry was posted on 日曜日, 10月 2nd, 2011 at 5:08 AM and is filed under 教育, 数学. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. You can leave a response, or trackback from your own site.

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